「そういえば、君はもう軍属ではないのにキンブリーを階級で呼んでいるが、何か理由があるのか?」 「変でしょうか?」 「いや…ただ、奴を階級で呼ぶのは君だけなので少し気になっただけだ」 確かに。 言われてみれば、『キンブリー』『キンブリーさん』『キンブリー殿』とは呼ばれていても、彼を階級で呼ぶ者は他にいない。 それはキンブリーが現在お偉いさんの指示で動いているとは言え、もはや軍人として扱うには難がある人物だからなのだろう。 この要塞の中においても、キンブリーの立場はあくまでも『レイブン中将の客人』だ。 なまえとしても特に階級に拘っているわけではないのだが、対外的には階級呼びのほうが面倒がないと考えてのことだった。 「プライベートでは名前で呼びますよ。でも今は仕事中ですから」 「そうか」 「それに、私が所構わずゾルフなんて親しげに呼んだりしたら……」 マイルズは顔をしかめ、むず痒さを感じたように居心地悪げに肩を動かした。 「…悪かった。今の質問は忘れてくれ」 「…はい」 会話が途切れたところで、ちょうど通話も終わったようだ。 キンブリーが白いコートの裾を優雅になびかせながらこちらに向かって歩いてくる。 「お待たせしました」 帽子を持ち上げて告げたキンブリーは、おや、という顔をした。 「どうしました?変な顔をして」 「…いえ、別に」 「でも、さっき私をゾルフと呼んだでしょう」 「気のせいですよ。ねえ、マイルズ少佐」 「あ、ああ…」 瞳を鋭くしてなまえを見るキンブリーからさりげなく目を逸らす。 「…まあいいでしょう。後で呼びたいだけ呼ばせればいいだけですからね」 「…!」 「さて、と。行きましょうか、マイルズ少佐」 そう言ってキンブリーはすたすたと歩き出した。 その後ろをついていきながらマイルズが気の毒そうになまえを見る。 可哀想に思うなら助けて下さい。 ……無理か。 深々と溜め息をつくと、なまえは重い足取りで上司でありご主人様であり恋人でもある男の後を追いかけた。 |