その後は宣言通り近くの宿で休息をとったのだが──
翌日がまた慌ただしかった。

なまえが着替えを持ってキンブリーの病室に行くと、そこには中央からわざわざ駆けつけたというレイブン中将が待ち構えていたのだ。
しかも、昨日まで瀕死の重傷を負って絶対安静だったはずのキンブリーが、まるで何事もなかったかのような様子で立っていたのである。

「やあ、君がなまえだね。キンブリーから話は聞いているよ」

気さくに話しかけてきた中将に礼をとり、なまえは困惑の眼差しをキンブリーに向けた。

「これからレイブン中将と砦に向かいます。着替えを」

「あ、はいっ」

キンブリーに着替えを渡し、なまえは一旦病室の外に出た。
その姿を見送った中将が、好色そうな笑みをキンブリーに向ける。

「なるほど、イイ女だ。君もなかなかいい趣味をしているな、キンブリー」

「お誉めに預かり光栄です」

「特に胸と尻の肉の付き加減がいい。実に私好みだ。さぞ具合も良かろう。一度味わってみたいものだが……まあ、そうもいかんだろうな」

顎を撫でながらニヤついていた中将は、キンブリーを見ると、取り繕うように軽く咳払いをした。

「冗談だ、気にしないでくれたまえよ、キンブリー」

「ええ、勿論です」

答えたキンブリーは薄く笑んでいたが、その双眸は冷ややかなものだった。

この男も所詮は俗物。
権威に溺れる信念のない人間ほど醜いものはない。
しかし、だからこそ大総統はこの男を『駒』としてここへ寄越したのだろう。
器の小さい人間は、扱い方さえ心得ていればいくらでも使い道がある。
自分が使う側の人間だと思い込んでいる場合は、特に。

(せいぜい役に立って下さいよ)

手早く着替えを済ませ、先に立って病室を出ながらキンブリーは密かにほくそえんだ。

後ろの愚かな男は、まさか自分が『使われる』側であるとは夢にも思っていないに違いない。
それを思うと、この醜い男が薄汚い想像の中でなまえを汚した事も、おおらかな気持ちで許してやれそうだった。

「中佐」

廊下で待っていたなまえが安堵の表情を浮かべてキンブリーに微笑みかけてくる。

「行きましょう、なまえ」

「はい」

キンブリーは白い帽子を片手で被り直した。

さあ、休みは終りだ。
楽しい楽しい仕事の続きにとりかかるとしよう。


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