少し潔癖症のきらいがあるらしい彼は、いつも清潔な身なりをしている。
軍服の上着が汚れたら直ぐに着替えるし、軍靴が泥まみれになっていることもない。
何日も着替えずにいる軍人が多い中では、いっそ異端な存在と言えるだろう。

身長はそれなりに高く、女性のなまえから見れば、充分長身と呼べる高さだが、見上げるような大男というわけではない。
優男といった風でもなく、かと言って屈曲な体格というわけでもない。

顔立ちは甘いマスクの正統派の美形とは言えないが、女性受けは良さそうだ。
実際、キンブリー宛に回ってくる書類に、連絡先らしきものと女性の名前が書かれたメモが挟まっていたこともあるくらいだ。

ただ、目が怖い。
とても冷たい目をしている。

「貴女は私が嫌いですか」

唐突にそう問いかけられたなまえは目を丸くした。

「いいえ。嫌いだなんて、そんなことは──」

「では、私が恐ろしい?」

デスクに手を突いてキンブリーがなまえの顔を覗き込んでくる。
思わずギクリと肩が揺れてしまった。
──見抜かれている。

「私は貴女が好きですよ、なまえ」

甘い声音で囁かれ、心臓が音をたてて跳ねた。
それが恐怖によるものなのか、それとも恋情の芽生えによるものなのかはわからない。
そんな事を考える余裕はなかった。
キンブリーの顔が近い。
あの目がしっかりとなまえを捕らえている。

「恨むなら私に目をつけられた己の不運を恨みなさい。貴女は私の獲物なのです。この腕の中に捕まえた以上、逃がしはしません」

「しょ……少佐…」

果たして自分はどんな顔をしていたのだろう。
妖しく艶めいていながら壮絶な威圧感を放っていたキンブリーの笑みが、ふっと悪戯っぽいものへと変わる。

「少しいじめ過ぎましたかね」

キンブリーは笑いながら身をひいた。
それと同時に、標本の蝶を刺し貫くピンのようになまえを縫いとめていた視線の呪縛も断ち切られる。

「心臓に悪い冗談はやめて下さい!」

なまえは片手で胸を押さえて上司に抗議した。
まだ心臓がドキドキしている。

「冗談?…まあいいでしょう。今日のところは許してあげますよ。ところで、何だか喉が渇きましたねぇ」

自分の椅子に腰を下ろして優雅に足を組み、キンブリーは澄まして言った。

「…お茶を淹れてきます」

紅茶を淹れるために立ち上がったなまえの背中をキンブリーの含み笑いが追いかけてくる。
まったく、タチの悪い男に魅入られてしまったものだとなまえは深いため息をついた。


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