「これでお前は自由だ。好きな所へ行け」


海軍に捕縛され牢に収監されたクロコダイルは、なまえにそう告げた。

檻の中にいて手錠で拘束されていても彼はふてぶてしい態度のままだった。
「葉巻はねェのかよ」などとぼやいている。
スモーカーもそんな彼に呆れ顔だ。


──自由?

一方、いつもの不敵な表情で意外な言葉を告げられたなまえはショックで混乱していた。

自由。
こんなものが。

自由になるという事が彼から離れる事ならば、自由なんて欲しくなかった。
ずっと彼のものでいたかった。


アラバスタ王国での一連の事件により、今までの悪事が露見して収監されたクロコダイルは、取り調べの際になまえはバロック・ワークスの社員ではないと海軍に証言した。
実際、なまえは彼の「仕事」に手出しする事を一切許されていなかったので、それは嘘ではない。
捕縛された他の幹部達やビビ王女までもが口を揃えて同様の証言をしたことから、一時身柄を拘束されただけで、なまえは一人だけ無罪放免となったのだった。

そして、それは同時に、たった一人きりで広い世界に放り出されるという事を意味していた。

クロコダイルに拾われ、今までずっと彼の側で彼に従って生きてきたなまえにとって、“自由”などというものは有り難くもなんともないものだった。
今さら好きにしろと言われても、ただひたすらに戸惑い、困惑するばかりである。

その自由な時間の中で、なまえは頭を振り絞って一生懸命考えた。

これからどうするべきなのか。
自分はどうしたいのか。

今、生まれて初めて彼女に人生の選択肢が与えられたのだ。


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