夏休みが終わり、二学期が始まった。
学園祭シーズンに突入するこの時期、我が立海大附属中学校でも一大イベントである海原祭が開催される。
その海原祭の今年の目玉イベントを知れば、立海生のみならず他校の女生徒達が歓喜の叫びをあげて押し寄せてくるだろう。
生徒会主催による、幸村精市リアル王子様計画だ。
王子に扮した幸村くんが、学園祭のオープニングとエンディングのイベントで大役を務める事になったのである。

「大丈夫?疲れてない?」

「大丈夫だよ」

「大変だね、復帰早々イベントにかりだされるなんて」

「皆には心配をかけたからね。これくらいの協力は仕方ないと思っているよ」

そう言って笑う幸村くんは、仮縫いされたばかりの王子の衣装を纏っている。
海原祭のイベントで彼が着る衣装だ。
それなりに良い布を選んであるため、かなり見栄えがいい。
色は海にちなんでブルー系で統一した。
我ながらグッジョブと言いたいほど幸村くんによく似合っている。

衣装制作を任されたことで友達からは冷やかされたり羨ましがられたりした。
そうは言っても、嬉しそうにニヤニヤしたり挙動不審になったりしたら、それはそれで幸村くんに対してとても失礼だと思う。
幸村くんはクライアントから紹介されたモデルさんとかお客さんに等しい存在なのだ。
だから友人達には、「服飾関係の人間が採寸のたびにいちいち相手を意識してたら仕事にならないよ」と必死に訴えてみたのだが、返ってきたのは哀れみの眼差しと溜め息で、「あの幸村精市の身体に触りまくって何も感じないなんてお前の血は何色だ」「本当に女か」などと散々な言われようだった。
そればかりか、「幸村くんを意識しないなんてこの子変だよね!?」と幸村くん本人にまで訴えられてしまった。
言われた幸村くんは苦笑いだったけど。

「それは、俺を意識しないように努力をしてるってこと?」

「うーん、どうだろう…そんな必死で努力してるっていうわけじゃなくて、無意識に近い感じで抑制が働いてるっていうか」

「へえ…そうなんだ」

幸村くんは笑ったけれど、それはいつもの柔和な笑い方ではなかった。
含み笑い、みたいな感じの。
でも、それ以上何か言われることもなく、学園祭前日まですっかりそんなやり取りがあった事さえ忘れていた。


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