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11月23日 勤労感謝の日

今年は中途半端に間が空く形となってしまったため、残念ながら連休にはならなかった。
と言っても、高校生にとって勤労感謝の日は特に興味深い祝日というわけではない。
その証拠に、教室内で交わされる会話の内容は、来月のクリスマスや冬休みについての話題が殆どだ。

「リア充爆発しろとまでは言わねえけどさー、やっぱクリスマスは仲間でワイワイするもんっしょ?」

「ごめん、俺もクリスマスは彼女と約束してる」

「リア充爆発しろ」

近くの席から聞こえてきた会話に、物騒な…とそちらを見ようとすると、両頬をギュッと挟みこむようにして固定され、女友達のほうへと向かされた。
今は明日の祝日について尋問の真っ最中なのだ。

「じゃあ、今日は学校帰りにそのまま蔵人さんの別荘に行くの?」

「うん、そう」

「まぐわうんですね!」

「まぐわわない!」

むきになって否定すれば、友人は「あらそう」と笑った。
どうでもいいが何故オホホ笑いなのか。

聖羅にとって赤屍蔵人は保護者のようなものだ。
父でも兄でも恋人でもなく、それでいて、そのすべてのような。
曖昧で甘美な関係にある、大人の男のひと。
彼から見れば自分なんてまだほんの子供に過ぎない。
欲望の対象になんてならないはずだ。

──でも、本当にそうだろうか?

11月23日は赤屍の誕生日だ。
そんな日に、いつも生活しているマンションではなく、それこそ非日常の舞台とも言うべき森の中の別荘で二人きりで過ごすのだから、ほんの少しもそういった意味合いの予感を感じなかったとは言いきれない。

「なんかよくわかんないけどさ、」

なでなで、と頭を撫でられる。

「とにかく、楽しく過ごしておいで」

「…うん」

「いい誕生日になるといいね」

「うん」

蔵人さんによろしくと笑った友人は、やはり一番の友と呼べる存在だった。

**

キュッ、とコックを捻ると、頭上から暖かな湯が降り注いだ。
汚れを含んだ赤い泡がぐるぐると渦巻きながら排水溝へと消えていく。
それとともに、赤屍の裸身を流れ落ちていく湯も透明なものへと変わっていった。
あまり時間はない。
そろそろ聖羅の学校が終わる時間だ。
今日は彼女を迎えに行ったその足でそのまま別荘へと向かう予定なのだった。
浴室から出た赤屍は、バスタオルで身体の水分を拭き取った後、いつもの仕事用の黒衣ではなく私服を着て、荷物を手にマンション下の駐車場へ降りて行った。
車のトランクに荷物を積み込む途中、ポケットの中で携帯が震えた。

「貴方から電話とは珍しい」

通話ボタンを押してそう告げれば、携帯の向こうから聞こえる声に更なる苛立ちが混ざった。
一方的な彼の“忠告”を聞きながら、トランクを閉める。

「欺瞞…ですね」

運転席のドアを開けて乗り込んだ赤屍は、穏やかな口調で切り返した。

「聖羅さんを哀れむのは勝手ですが、それは貴方の規準によるものでしょう。それとも、自ら彼女を救う王子にでもなってみますか」

美堂君、と続ける。

「その気がないのでしたら余計な口出しはお節介でしかない。中途半端な同情は優しさでもなんでもありませんよ。私は彼女を愛しています。私なりの愛し方で、ね」

相手が黙ったので、赤屍は携帯を切ってエンジンをかけた。
愛しい少女を迎えに行くために。



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