街を歩く人々の服装を見れば、大体季節が分かるものだ。 しかし、12月に入って一週間経った今、コートを着ている者もいれば、秋口に着るような比較的軽装の者もいて、どうにもはっきりしない。 そろそろクリスマスなのだから寒くて当然だが、まだ時々暖かい日があったりするので、どうも師走だという実感が薄かった。 そういえば、今年は夏から秋への移り変わりも微妙な感じだったな、と過ぎ去った季節を振り返り、聖羅はマンションのエレベーターからフロアへ降り立った。 それにしても今夜は冷える。 簡単にだけど食事は済ませてきていたので、すぐにお風呂に入りたいななどと思いながら玄関ドアを開けると、私服姿の運び屋に出迎えられた。 「お帰りなさい、聖羅さん」 「ただいまです」 「寒かったでしょう。お風呂沸いてますよ」 「わ、有難うございます!」 「着替えも脱衣所に置いておきました。このまま浴室へどうぞ」 「はー、い…………………………えっちなことしませんよね?」 何故かついてくる赤屍に、俄に警戒心をかきたてられてそう尋ねると、くすりと小さく笑われた。 「そんなに警戒されると、期待に応えなければいけないような気がしてきますね」 「だだだだめですからねっ! 明日も仕事なんですから!」 「分かっていますよ」 (…本当かなあ…) 本当だった。 ちょうど良い湯加減の湯と、アロマバスエッセンスの甘い香りに、冷えていた身体が温まり、張り詰めていた神経がときほぐされていく。 目を閉じて力を抜くと、背後にある大きな男の身体に支えられた。 脇腹を撫でて這い上がった手の平が、やわやわと腕を揉む。 「くすぐったいです」 「そうですか」 くすくす笑って身を捩れば、もう片方の腕にいきなり右足の膝裏を掬われた。 「きゃっ…!」 バランスを崩した聖羅の身体を自分の身体でしっかり支えながら、赤屍がふくらはぎを揉みほぐし始める。 いきなりなのでびっくりしたものの、これが結構気持ちがいい。 聖羅はすぐにまた力を抜いて赤屍に身を委ねた。 「気持ち良いですか?」 「ん……」 ふくらはぎから足首へ。 土踏まずを強めに親指の腹でグリグリと押される。 それが終わると、今度は反対の脚の番だった。 肌を滑るたびにかすかに感じる違和感は、男の手の平にある傷痕のせいだろう。 星形にも十字架の形にも見えるそれは、聖羅の知らない赤屍の歴史だ。 首に柔らかな感触のものが触れたかと思うと、軽く吸われ、ちくりと痛みを感じた。 「眠ってしまっても構いませんよ」 目を閉じて赤屍の手の平がもたらす快感に浸っていたのを、眠くなったのだと思われたようで、耳元で甘いテノールが囁いた。 眠るなんてもったいない。 聖羅は微笑んで、赤屍の手に自分の手を重ねた。 今夜はとことん甘え倒そう。 |