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「痛みますか?」

「大丈夫…です…」

強がりではない。本当に痛みは殆ど感じなかった。
挿入された瞬間に少し痛かったが、それだけだ。
やはりこれも赤屍の卓越した技能によるものなのだろうか。
下手な人がやると我慢出来ないくらいの激痛が走るというから、赤屍は相当上手い部類に入るに違いない。

ただ、異物感というのか──そこに異物が入っている感覚だけはどうにも拭い去れなかった。
必死にそこから意識を逸らそうとするあまり、自然と顔を背けてしまう形となっていたので、赤屍は聖羅が痛がっていると思ったのだろう。
心配そうにこちらを見つめている彼にほのかに微笑んでみせて、大丈夫だと伝える。

「ただ…その、想像していたよりもずっと太くて大きかったから…ちょっと怖くなっちゃって」

「そうでしたか。怖かったら目を閉じていても良いのですよ」

「はい…」

言われた通り目を閉じると、確かに少しばかり恐怖が薄れたようだった。
その代わり、視覚が遮られたぶん触覚が鋭敏になったのか、異物が刺さっているそこに意識が集中してしまう。
貧血に似た感覚だった。
心臓は痛いくらいドクドクと脈打っているのに、同時に血の気がひいているのがわかる。

「──はい、終わりましたよ、聖羅さん。良く頑張りましたね」

目を閉じていた聖羅の頭を赤屍が優しく撫でた。

ほっとしながら目を開く。
赤屍の美貌を瞳に映し、聖羅は緩慢な瞬きをした。
何だかまだ頭がくらくらしている。

「気分は如何です?」

「いつもよりは平気ですけど、やっぱりちょっとだけ目眩がしてます」

「おやおや…本当に注射が苦手なのですねえ。ですが、確かに少し顔色が悪いようだ。暫く横になって休んでいなさい」

注射針を抜いたばかりの箇所に手早く処置を施し、採取した血液をケースに移しながら赤屍が笑う。
スーツの上に羽織った白衣が似合っているとか、普段より優しそうに見えるだとか、色々なことを感じながらも、今この瞬間、主に聖羅の心を占めているのは、無事に採血が終わって良かったということだった。



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