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「金額は気にしなくて構いません。好きな物を選んで下さい」

デザイナーズブランドの試着用ドレスに囲まれた部屋の中、赤屍はにこやかな笑顔で聖羅にそう告げた。
さすが金持ちは言う事が違う。

「で、でも…」

そう言われても…と、聖羅は口ごもった。
何しろ、これらのドレスの値段は一般的なそれとは桁が違うのだ。
もはや気後れするとかいうレベルではない。
かと言って、彼は決して金銭感覚が麻痺しているというわけではなく、必要なところには必要なだけ使い、後は貯蓄するといったタイプであるらしい。
そして今回は文字通り金に糸目はつけない気でいるようだった。

「あまり高いのはちょっと…」

そう控えめに言うのがやっとの聖羅に、赤屍は「そうですか?」と首を傾げてみせた。

「一生に一度の事なのですから、悔いが残らないよう、良い物を選ぶのは当然のことですよ。遠慮する必要はありません」

やんわりと肩を押されてドレスの前に連れ出される。
照明に照らされて輝く純白のドレスは、目に痛い程の白さだ。

「一口にウェディングドレスと言っても、様々なデザインの物があるのですね」

「そうですね」

一番近くにあった袖無しのものとパフスリーブのドレスを見比べながら聖羅は答えた。
しかも、実際には完成品は体型と細かい注文に合わせてすべてオーダーメイドで作られるため、その種類は相当な数にのぼるだろう。

「とりあえず着てみませんか?」

赤屍の提案に、少し離れた場所に控えていた女性スタッフが笑顔のまま寄ってくる。

「是非お召しになって下さい。実際にご自分で着て鏡をご覧になるのが一番ですよ」

「これはいかがです?胸元の開き方とレースの模様が良いと思うのですが」

「本当…すごく綺麗」

「ね?着てみて下さい、聖羅さん」

聖羅はドレスを渡されて試着室に向かった。
女性スタッフが手伝うために一緒に入ったが、それでも十分余裕があって広い。
全身を映せるように壁の一面が鏡になっており、アンティーク風の高級そうな鏡台と椅子まである。
ドレスを着せられ、最後に胸元のあたりを整えられて、聖羅はふうと息をついた。
着てみればそれほど窮屈な感じはしないものの、着るまでが大変だ。

「よろしいですか?」

「あ、はい」

確認をとったスタッフがドアを開ける。
こちらを向いていた赤屍と直ぐに目があった。
その目が細められるのを見て、なんだか恥ずかしくなってしまう。

「綺麗だ…とてもよくお似合いですよ」

甘いテノールで褒められ、聖羅は項まで赤く染めて俯いた。
アクセサリーをお持ちしますね、と、気を利かせたスタッフが席を外す。

「本当に?おかしくないですか?」

「いいえ。まったく。世界で一番美しい、誰よりも魅力的な花嫁です」

二人きりになると、赤屍は聖羅に歩み寄ってきて腰を引き寄せ、首筋にキスを落とした。
こうなると、大胆過ぎるほど大きく開いた胸元がいたたまれなくなってくる。

「ただ…少し困りますね」

「?」

「こんなに美しくては、私の理性が保ちそうにない」

「…保たせて下さい」

当日が別の意味で心配になった。



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