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全国的に遅れていた梅雨入り。
本日になってようやく裏新宿を含む首都圏にも梅雨入り宣言が出された。
蝉が鳴くにはまだ早く、けれども紫陽花は既に見頃を迎え始めていた、その日の夜。

「お帰りなさい」

玄関のドアを開けると、優しい抱擁と声に迎えられた。

「えっ、赤屍さん?」

赤屍の胸にすっぽりと抱き包まれながら驚いて顔をあげる。
間近で見る端正な顔には微笑が浮かんでいた。
心臓がドキドキしている。
きっと頬も赤い。
白いシャツに黒いエプロンが良く似合っていて妙に魅力的だ。
普段から無駄に色気のある美貌だとは思っていたが、こんな姿も似合うとは。

「ど、どうして…」

「合鍵を使ったのですよ。驚きましたか?」

こくこく頷く。
本当に驚いた。
確かにこの前合鍵を渡してはいたが、まさか来ているとは思わなかったので、まだ心臓がバクバクしている。
そんな聖羅を見て赤屍はクスッと笑った。

「食事にしますか?お風呂を先に?それとも──」


飄々としているように見えて、その実、赤屍の沸点は非常に低い。
激昂こそしないものの、ただでさえ恐ろしい男が静かにキレる様は、それだけで肝が冷える。
特にその逆鱗に近い場所にいるのが卍一族だった。
そろそろ長い付き合いになる卑弥呼達運び屋仲間でさえも、彼らの何がそんなに赤屍のカンにさわるのか未だに理解出来ずにいる。
今日、赤屍は、軽く両手の指を越える数の卍一族を屠った。
仕事の邪魔をされたからというのもあるが、単純に気に障ったのだ。
哀れな雑魚達は、ほんの瞬きする間に肉塊に成り果てて、美しく咲いていた紫陽花の垣根へと降り注いだのである。

まるで赤い雨のように。

それでもなお苛立ちは完全にはおさまらず、仕事を終えて一度マンションに戻った後、赤屍は手っ取り早く癒しを得られる場所へと向かったのだった。



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