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今夜は花火大会。
聖羅は赤屍に誘われて小さな神社にやって来ていた。
花火はこの裏手から上げられるのである。

「花火が始まるまで少し時間がありますね。出店を覗いてみましょうか」

「はい!」

祭り特有の熱気の中で一人涼しげな風情の赤屍は、そっと聖羅の手を取った。
そして、ごく自然な仕草でそのまま自らの腕に絡ませる。
それほど大きな規模ではないが人手はそこそこあるから、はぐれないようにとの配慮だろう。
今宵の赤屍はいつもの黒いコートではなく、浴衣姿。
濃紺の浴衣が細身で引き締まった体躯に実に良く似合っている。
──はっきり言ってめちゃくちゃ色っぽい。
その浴衣の生地越しに男の逞しい腕の感触がわかり、それだけで周囲の気温がいくらか上がったような気がした。
少し赤くなった顔を上向かせれば、見上げた先で綺麗な顔がにこりと微笑んだ。

「さあ、行きましょう、聖羅さん」

奥に向かって流れていく人混みを泳ぐようにして進んでいくと、直ぐに色とりどりの屋台のテントが見えてきた。
フランクフルトにかき氷、数字当てにヨーヨー釣り──定番の屋台は殆ど揃っている。

「何でもお好きな物を」と告げた赤屍の言葉に甘えて、聖羅は次々と屋台を回っていった。
あまり食べてはお腹いっぱいになって浴衣がきつくなってしまうので、涙を飲んで我慢だ。
その代わり、射的やくじ引きなどの遊びはたっぷり堪能した。
そうしたゲームに関する赤屍の腕前は勿論言うまでもない。
参道を進む間に、手持ちの袋は景品で一杯になっていた。

「もうそろそろ時間ですね。移動しますか?」

赤屍が時計を確認した時、聖羅はふとガラスの小物が並ぶ店に視線を止めた。
何という事はない、どこにでもありそうな品の数々。
普段ならば安っぽく見えるようなそれらが、祭りの夜には魅力的に見えるから不思議なものである。
吊り電球の灯りに輝くその中の一つ、赤い小さなガラスの石のついた指輪が、聖羅の目を惹き付けていた。
赤いガラス。
まるで血のような色をしたそれが、赤屍を連想させたからだろう。

「それが気に入ったのですか?」

財布を出そうとした聖羅の手を制して赤屍が微笑む。
彼は自分の財布を取り出すと、さっさと支払いを済ませてしまった。

「指輪なら、また今度改めて買って差し上げますよ」

ちらりと笑みを含んだ目を向けて、聖羅の指に指輪をはめる。

「さあ、花火を見に行きましょう」

「はい…有難うございます、赤屍さん」

頷いて赤屍の腕に腕を絡ませ直した聖羅の指輪──電灯の光をチカチカと反射して輝くそれは、既に売約済みであることを示すように、左手の薬指にぴったり嵌まっていた。



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