やっと退院だと思うと嬉しくて堪らない。 決して居心地が悪かったというわけではなく、むしろ都内の病院では指折りの快適さだったと思う。 それでもやはり不便な点はあるもので、特に携帯が使えないのは辛かった。 心臓外科・脳外科の患者が多いせいか、院内への持ち込み自体が禁止されている為、メールチェックも出来ない有り様だったのだ。 そんなこともあり、見舞いに来た友人知人にも、心からの笑顔で応対することが出来た。 一人を除いては。 「明日退院なんだって? おめでとうー」 甘ったるい声。 語尾を伸ばす独特の話し方。 見舞いではなく今から合コンに行くのかと思うような気合いの入った服装とメイク。 聖羅は引きつった笑顔で「有難う」と返した。 この同僚の女とは、別に仲が良いわけでもなんともない。 むしろ職場では気が合わず、普段から敬遠していたくらいだ。 そんな彼女がわざわざ聖羅の見舞いにやってきたのは、恐らくは今日一緒に来ている見舞いのメンバーにターゲットがいるからだろう。 純粋な気持ちで見舞いに訪れたわけではないことは、今日一日で彼女がやらかした数々の事柄からも明らかだ。 点滴を下げたスタンドをガラガラ引き摺りながら歩く入院患者の姿を見て吹き出したり、入院している自分が知るはずもない話題を楽しげに延々と語ったり、見舞いの品をあさったり、などなど。 正直とっとと帰って欲しいというのが本音である。 「でも、ほんっとーに災難だよねえ。GWもろくに遊びに行けないまま入院しちゃったしぃ、こんなところじゃ出会いもないしねぇ?」 登頂部が禿げた年輩の脳外科のドクターが廊下を歩いているのを見て、彼女は大袈裟な「可哀想」の表情を作って聖羅に言った。 失礼だし大きなお世話である。 一緒に来ている男性陣達がそんな彼女の言動を「無邪気で可愛い」と思っているらしいことが、更に聖羅の絶望を加速させていた。 こんな女と、こんな女に騙される男ばかりでは、あの職場はもうダメかもしれないとさえ思う。 |