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天高く馬肥ゆる秋。
食欲の秋、行楽の秋、スポーツの秋など、様々な事柄が連想される季節であるが、学生にとってはイベントの秋でもある。
その一つが学園祭だ。

「うわ、もう真っ暗」

窓を見て呟いた友人の言葉に、聖羅も作業の手をとめてそちらに目を向けた。
ついさっきまで夕暮れの赤に染まっていたはずの空は、完全に夜の色に変わってしまっている。
それを意識した途端、どくん、と心臓が不穏に跳ねた。

「どうしたの?」

「あ…ううん、何でもない。ちょっと疲れちゃって」

「だよねー、三時間くらいぶっ続けだもん。休憩しよっか」

顔色の悪さを疲労のせいだと誤魔化した聖羅に、友人は疑うことなく同意して、自分が持っていたトンカチを道具箱に無造作にしまった。
床にはまだベニヤ板が数枚残っている。
時間を確認してみれば、19時。
暗くもなるはずだ。
聖羅は友人と組み立てたパネルを壁に立てかけると、それぞれペットボトルを手にして椅子に腰を下ろした。
蛍光灯の光のお陰で真昼のように明るい教室の中には、まだ釘を打ち付ける音や話し声が響いている。

「サボりかー」とふざけた声がかかるのに対し、友人は「休憩ですー」と同じくふざけた調子で返してペットボトルの中身をごくごく飲んだ。
たぶん何処のクラスもこんな感じだろう。
ごく普通の学園祭の準備風景。
しかし、聖羅の胸をじわじわと不安が蝕んでいく。

ポケットから携帯を取り出し、片手でカチカチメールを打ち始めた友人を見て、聖羅も自分の携帯を取り出した。
着信はないが、メールが一通入っている。

『帰る時に連絡して下さい。迎えに行きます』

思わず口元が緩んだ。
心臓を凍てつかせていた不安がゆるやかに静まっていく。
聖羅の表情の変化に鋭く気付いた友人がニヤリと笑った。

「なーに? “蔵人さん”?」

「う、うん」

「あーあ、嬉しそうな顔しちゃって。ハハハハハ、こやつめ〜!」

「ちょ、痛いよっ」

グイグイと肘で脇腹を突かれ、苦笑いで身をよじって逃げる。

「遅くなったから迎えにきてくれるんでしょ? いいんじゃない、もう連絡しちゃっても」

「うん、そうしようかな」

聖羅は友人の勧めに従ってメールを打ち始めた。
ふざけた言い方ではあるが、彼女が自分を心配してくれていることはよく分かる。
何一つ事情を話していないにも関わらず、この勘の良い友人は聖羅が抱えている“何か”に気付いて心配してくれているようだった。



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