喫茶店の中はちょっとしたオアシスだった。 冷房も効いているし、ゆっくり座れるし、何よりも濡れる心配がない。 窓の外には様々な色の傘の花が咲いている。 喫茶店に逃げ込んだ時には雷付きの土砂降りだった雨はようやく小降りになりつつあるが、空はまだ暗く、未だ不穏な音を轟かせていた。 ニュース番組で気象予報士が話していたところによると、今年は冷夏で、各地で集中豪雨が多発するのだとか。 よく冷えたグラスの中で氷が音を立てて動く。 車道を行き交う車の赤く瞬くランプを眺めていた聖羅は、見覚えのある漆黒の車体が近くのコインパーキングに止まったのを見つけ、内心喜びで沸き立った。 緩みそうになる頬を意識して引き締める。 一人で座っている女が急にニヤニヤし始めたら、変な人だと思われてしまうだろう。 たとえようもない甘美な気持ちで、(そして、ニヤけそうになるのを必死で堪えながら)聖羅は車から降りてきた人物が喫茶店のドアを開けて入ってくるのを見守った。 「赤屍さん!」 呼びかける必要はなかったかもしれない。 彼の目は初めから真っ直ぐ聖羅をとらえていたのだから。 それでも、何度でも名前を呼びたい気分だった。 「すみません、待ちましたか?」 「いえ、平気です。わざわざ迎えに来て下さって有難うございました」 もうニヤニヤしてもいいだろうか。 というか、我慢出来ずに既にニヤてしまっている気がする。 「メール……すごく嬉しかったです」 恋する乙女はかくあるべきと言わんばかりに、瞳をキラキラさせ、ほのかに頬を染めて、聖羅は赤屍を見上げた。 『濡れませんでしたか?』 赤屍からそんなメールが届いたのは、ちょうど突然降りだした土砂降りの雨に絶望した直後のことだった。 あまりのタイミングの良さに思わず携帯を二度見してしまったくらいだ。 『車で迎えに行きますから待っていて下さい』 メールの本文はそう締めくくられていた。 時々、まるでこちらの行動や状況を見透かしているのではないかと、ほんのり怖くなる事もあったが、正直今は有り難い。 聖羅は一も二もなく返信した。 有難うございます。 いつもの喫茶店で待っています。と。 |