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大型の台風が、明日未明、首都圏に上陸するという。
各地では急ピッチで台風対策が行われているはずだが、赤屍蔵人のマンションはまったくいつも通りまるで危機感を感じない快適さだった。

ガチャリ、と脱衣所に通じるドアが開き、寝室に二人の人間が入ってくる。
一人は赤屍。
そして、彼の腕に抱きかかえられているのは聖羅だ。
二人ともにバスローブ姿であること、ぐったりと脱力している聖羅を一目見れば、浴室で何があったかは明らかだった。

「喉が渇きましたね」

ちゅ、と聖羅の唇にキスを落としてその身体をベッドに下ろすと、赤屍は一人寝室を出ていった。
飲み物を取りに行ったのだろう。

残された聖羅はのろのろとした動作で、タオルで髪を拭き始めた。
大きなあくびが一つ。
明日が休みではないせいか、一回で許してくれたのは嬉しいが、その一回がかなり濃厚なものだった為、気怠いのを通り越してもうくたくただ。
眠くてたまらない。

とは言え、赤屍蔵人は文句無しに素晴らしい恋人だと言えるだろう。
優しいし、気遣いもある、頼れる紳士だ。
台風に怯える聖羅を心配して、自らのマンションに避難させてくれたぐらいである。
…キッチンで野菜を刻んでいる時に、こんな風に人間もメスでザクザクしちゃうのだろうかなどと考えさえしなければ、だが。

「──ん?」

ふとテーブルに目を向けると、携帯のランプが点滅していた。

「メールかな…?」

おもに腰から下に力が入らない為、生まれたての小鹿みたいに脚をぶるぶるワナワナさせながらテーブルに歩み寄って携帯を手に取る。
ベッドに腰掛けて開いた画面には、予想通り、メールの受信を知らせるメッセージが表示されていた。
夏実からだ。


sub:><いやーん
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
マスターに聞きました〜
赤屍さんのマンションはどうですか?
蛮さんが、別の意味で危険だろって言ってました。
脱出不可能・難攻不落の要塞に軟禁されてるってカンジですね!



「…………」

聖羅はそっと携帯を閉じた。
夏実は時々、悪意なくこちらを不安にさせるようなことを言うから困る。



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