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最強最悪の運び屋"
あるいは"最凶最悪の運び屋"
誰がいつ頃から呼び始めたものであったのか、もう覚えていない。
赤屍自身、どのように呼ばれようとも興味がないからだ。
重要なのは、あくまでも仕事の過程を楽しめるか否か、である。

闘いの中で、心地よい緊張感を味わいながらメスを振るう。
全身に返り血を浴びて微笑む彼を見て、恐怖を感じぬ者はいないだろう。
──僅かな例外を除いては。

美堂蛮は、恐怖というよりも嫌悪を。
天野銀次は、赤屍を恐れる様子を見せはしたものの、それを上回る怒りを持って、赤屍の殺戮を批難したものだ。

「……クク」

シャワーの熱い湯が、白く晒された喉元を叩いて弾ける。
流れ落ちた返り血が、螺旋を描きながら排水溝へと消えていく。
赤屍はまだ唇に笑みを浮かべたまま、艶やかな黒髪を両手でざっと掻き上げた。
抜けるように白い肌を水滴が伝い落ちていく。
綺麗に筋肉の張った胸板から、引き締まった腹筋へと。
指の間から零れ落ちた長い黒髪が首筋に張り付くのを、ぞんざいながらも優雅な仕草で後ろに流し、返り血をあらかた流し終えたのを確認すると、赤屍は改めてボディソープで身体を洗った。
少しでも血の匂いをさせていると、彼の可愛い恋人は抱かれてくれないのだ。
…まあ、そうして血臭に怯える顔も可愛らしいのだが。

先程まで立ちこめていた濃厚な血の香りに変わって、浴室の中に上品な甘い香りが漂う。
すると、ちょうど良いタイミングで浴室のドアがノックされる音が赤屍の耳に届いた。
いかにもおずおずといったその音と、すりガラス越しに見えるシルエットに、抑えきれずに笑みがこぼれる。

「大丈夫ですよ。どうぞ」

赤屍は優しげな声音を作ってドアの向こうの恋人へと声をかけた。
何も知らない赤頭巾を出迎える狼のように。



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