「ところで、聖羅さん」 赤羽が言った。 「今夜は何かご予定はありますか?」 「いえ、特にありません」 「それでは、ディナーにお誘いしても?」 「──────え?」 問診の続きの感覚で答えていたせいで、何を言われているのか理解するのに時間がかかった。 それから、一気に頭に血がのぼっていった。 「で、でででも、今日はバレンタインですよっ」 「バレンタインだから、ですよ」 クスリと笑って、赤羽がしなやかな指の背で聖羅の頬を撫でる。 ぞくっとするような艶めいた仕草に、聖羅は目眩とともに全身の血液が沸騰するのではないかと思った。 明らかに触診の時の手つきではない。 「日本では女性から男性へチョコレートを渡すのが一般的ですが、男性が愛する女性を薔薇やディナーでもてなす日でもあるのですよ。イベントを使うのは少々卑怯な気もしますが──良い機会ですから、はっきりさせておこうかと思いまして」 「何を……ですか?」 「わかりませんか?」 赤羽は微笑っているが、こんな笑みは今まで見た事がない。 綺麗な弧を描く唇に視線が吸い寄せられる。 「貴女を愛している、という事ですよ」 持参したチョコレートは当初の予定通り赤羽に食べて貰う事が出来た。 そして、その贈り主も。 |