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「ところで──」

椅子に腰掛けた赤羽が言った。

「先ほどは何故声をかけなかったのですか?」

「だって、女の子と話してたから…」

「焼き餅など焼く必要はないでしょう。私は貴女の恋人なのですから…ね。まあ、わざとチョコレートを受け取って、嫉妬する貴女の可愛らしい顔を観察するのも楽しそうではありますが」

くっくっと肩を揺らせて笑う赤羽に、聖羅は赤くなった頬を膨らませた。

「意地悪ばかり言ってると、チョコレートあげませんよ」

「それは困ります」

ギシ…と椅子を軋ませて身を屈めると、赤羽は微笑を浮かべた唇を聖羅の唇に軽く重ねた。
白衣から香る薬品の匂いに混じった良い香りを吸い込みながら、聖羅は瞳を閉じて、彼の口付けを受け入れる。
やがて、甘やかな吐息を残して唇は離れていった。
目の前で綺麗な顔が微笑んでいる。

「機嫌は直して頂けましたか?」

聖羅は笑ってチョコレートの入った紙袋を差し出した。

「これは…手作り、ですね。有難うございます、とても嬉しいですよ」

「良かった、喜んで貰えて。……あの、赤羽さん」

「何です?」

「さっきから気になってたんだけど、それは…?」

あまり指摘したくない気もしたが、聖羅は金属製のワゴンの上に並んだ太い注射や、チョコレートシロップ、手術用の手袋などを指差して尋ねた。
グリーンの診察台に敷かれたビニールシートも気になるところだ。

「クス──さて、聖羅さん。チョコレートプレイと触診プレイ、どちらになさいますか?」

勿論、両方された。



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