「それで、あの男、なんて言ったと思う?」 「さ…さあ…?」 「『人間が男と女に別れているのは、単に遺伝子を淘汰しシャッフルするためにすぎない』って言ったのよ!前々から人外じゃないのかと思ってはいたけど、愛情が理解出来ないなんて、いくらなんでも人間離れしすぎじゃない?」 叩きつけるような勢いで、ヘヴンがグラスをテーブルに置く。 完全に酔っている。 無限城から戻ってきてから初めて彼女と一緒に飲んだのだが、どうやら絡み酒らしい。 無限城での出来事の記憶は曖昧なのだというが、こうして部分的に覚えている事もあるらしく、聖羅を相手にあれこれと語って聞かせているのだ。 それでもその美貌には些かの遜色もなかった。 前から美女と呼ぶに相応しい美貌の持ち主ではあったが、来栖と再会してからは、誰かを愛し愛される女の輝きとでも言うものが加わって、よりいっそう魅力が増した気がする。 「ねえ聞いてる?ひどい男だと思わない?」 「聞いてますよ。はい、お水」 やれやれと笑って水を勧めれば、ヘヴンは逆らわずにそれを飲んだ。 そろそろ来栖が迎えに来る頃だ。 タイミングよく背後から近づいてくる靴音を聞きつけた聖羅は、ほっとして振り返ったのだが── 「今晩は、聖羅さん」 そこには来栖ではなく笑顔の魔人が立っていた。 黒衣の腕に、ガラスケースに入った美しい黒赤色の薔薇を抱えて。 「どうぞ。私の気持ちです。"魔の薔薇"と呼ばれる世界に一輪しかない薔薇です」 渡されたケースを怯えながらも受け取る聖羅。 その横で半分潰れかけたヘヴンが何やら言っていた。 「ねえ本当に聞いてる?ああいう男はねぇ、本気になった時が怖いのよー。絶対捕まっちゃダメよ!わかった?」 わかったけど、もう手遅れだった。 黒赤色薔薇の花言葉 ・決して滅びることのない愛 ・永遠の愛 ・死ぬまで憎みます ・化けて出ますよ |