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「紫陽花、お好きなんですか?」

「そうでもありません。こんな日に見る紫陽花は美しいとは思いますけれど、ね。それだけですよ」

では、やはり紫陽花ではなく、それを通して何か別のものに眼差しを向けていたのか。
どことなく次元を超越した遥か彼方を眺めているような、遠い眼差しをしていると感じたのは間違いではなかったようだ。

「紫陽花には毒があるということはご存知ですか?」

「毒?」

「ええ。ですから、いくら美しいからと言って食べてしまうと、嘔吐・痙攣・麻痺などの症状でのたうち回って苦しんだ挙げ句に、最悪命を落としてしまうことになる」

「こ…怖いですね…」

「そうですねぇ」と男は笑った。

「ですが、そう感じられる内はまだ安全と言えるかもしれません。恐ろしい、危険だ、と思ったものを回避しようとするのは人間の本能ですからね。──しかし、日常的に危機に晒されていると、やがては“恐怖”を感じる神経が麻痺してきてしまうようです」

男が見据える先で何かが動いた。
紫や青の紫陽花の茂みの向こうから黒い影が飛び出してくる。

「腐卑卑卑卑卑卑!卍一族推参!!」

「見つけたぞジャッカル!!」

魚眼レンズに似た物が付いた妙なゴーグルを装着した男達が、紫陽花の茂みから続々と現れた。
それぞれツルハシやピッケルを手に、今にも襲いかからんと構えている。

「そう──彼らのように…ね」

冷ややかに言った男の手から銀の閃光が飛ぶ。
空中に線が走ったのが見えた気がしたかと思った次の瞬間、襲撃者達の身体は文字通りバラバラに切り刻まれていた。
悲鳴をあげる聖羅の前で、ただの肉塊と化したものが地面と紫陽花の上に降り注ぐ。

「そういえば、自己紹介がまだでしたね」

両手で口を押さえて震えている聖羅を、男はゆっくりと振り返った。
ビシャビシャと音をたてて飛び散った肉と血など、まるで見えていないかのように。

「私は、運び屋の赤屍蔵人と申します。貴女のお名前は?」

むせかえる程の血の匂いが漂う中、霧雨に濡れた紫陽花が赤い斑尾模様に染まっていた。



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