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「お迎えにあがりましたよ、聖羅さん」

「有難うございます。すみません、わざわざ…」

目の前にやってきて聖羅と言葉を交わす彼を見た後輩は、一瞬ぽかんとした表情になったかと思うと、次いで、先ほどまでとは別人のような愛想の良い笑顔を作った。

「ええー?先輩の知り合いですかぁ?紹介して下さいよぉ」

あまりにも露骨すぎる豹変ぶりに苦笑しつつ紹介する。

「ああ…うん。前に話したことあったでしょ?一緒に住んでる──こん…婚約、者、の赤屍さん」

やっぱり少し照れくさい。
照れる聖羅を流し見て微笑んだ赤屍が、にこやかに挨拶する。

「初めまして。聖羅さんがいつもお世話になっています」

「そんなぁ…たいしたことはしてませんよ〜」

いやいや、むしろお世話してるのはこっちだから、とツッコミかけたが、聖羅は笑顔をひきつらせるだけにとどめた。
大人ってつらい。
赤屍はそんな聖羅よりも更に大人だった。
何か言おうとした後輩の機先を制して、今日もお付き合い頂いて有難うございます、今夜はもう遅いのでこれで失礼しますなどと、そつのない対応であしらっている。
いきなりメスを出されても困るが、こんな相手にも紳士でいなくて良いのにと少し思ってしまう。
勿論、それが自分のためである事はわかっているので、これは単なる焼きもちなのだが。

「まだいいじゃないですかぁ。せっかくだから一緒に飲みましょうよぉ〜!」

「え、でも、さっき彼氏が待ってるからあまり遅くなると困るって──」

途端、物凄い目で睨まれた。空気読めと言いたげな顔である。

「いえ。女性を遅くまで付き合わせるわけにはいきませんから。さあ、帰りましょう」

赤屍はさらりと言って、さりげない動作で伝票を手に取った。

「あっ、いいですよ!私払いますから!」

「そう言わずに甘えて下さい。はい、行きましょうね」

やんわりと背中を押されて店の出口に誘導される。
後輩と一緒に先に出て待っているよう言われ、聖羅は仕方なく彼女を連れて外に出た。

「先輩って、ほんっっと性格悪いですよね!」

店の外に出た途端、後輩は顔を歪めて憎々しげに聖羅を睨みつけた。

「見せつけて楽しいですか!?どうせ相談してた時も私のこと心の中で笑ってたんでしょ!?信じられない!」

「ご、誤解だよ!そんなつもりじゃ…」

「なんで先輩ばっかりあんなカッコいい人と!ズルい!!」

なんとか宥めようとするが、とにかくズルいズルいと喚くばかりでまるで話しにならない。
そうする内に、会計を終えた赤屍が出て来た。
チラリと聖羅を見た赤屍は、「ここで待っていて下さい」と言い置くなり、わけのわからない事を叫び続けている後輩を近くの路地に引っ張りこんだ。

5分程待っただろうか。
路地から一人戻ってきた赤屍を見て、聖羅は心配そうにそっと尋ねた。

「あの…彼女は…?」

「大丈夫ですよ、心配いりません。お話したらちゃんとわかって頂けたようで、そのまま帰りましたよ」

「そ、そうですか…」

とりあえず納得してくれたらしい。
聖羅は安堵して溜め息をついた。
明日職場で会ったらまた文句を言われるかもしれないが、それは仕方ないだろう。

「さあ、帰りましょう」

「はい」



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