小鳥のさえずりの代わりにカラスの鳴き声で目が覚めた。 近頃はずっとこうだ。 前よりもカラスが増えてきている。 たぶん餌を求めてゴミ収集場を荒らしにきているのだろう。 「…ん〜……」 「おはようございます」 「!?」 ぱちっと目を開けると、綺麗に整った白皙の美貌が直ぐ目の前にあった。 手袋がはめられていない手が、寝乱れた聖羅の前髪をかき上げて、ちゅっと唇が落とされる。 「あああああ赤屍さん!?いつ入ってきたんですか!?」 「まあまあ、いいじゃないですかそんな細かいことは」 「よくないですっ!」 聖羅は少しでも遠ざかろうと、布団の中で仰け反った。 そもそも鍵がかかっていたはずなのに、どうやって侵入したのだろう? 「それよりも、朝食を作ってありますから早く食べたほうが良いのでは?今日もお仕事でしょう」 そういえば美味しそうな匂いがしている。 何か答える前に正直者のお腹がぐうと鳴った。 赤屍がくすりと笑う。 白い指先が黒髪を梳いて耳にかける仕草が色っぽい。 「いま持ってきます」 「あ、はい」 結局、なんだかよくわからないうちに流されてしまい、不法侵入の件はうやむやになってしまった。 フレンチトーストに、サラダ。 そしてスクランブルエッグとベーコン。 朝はパンとコーヒー程度しか食べないのだが、ぺろりとたいらげてしまった。 太ったら赤屍のせいだ。 ドレッシングは市販の物しか買っていなかったはずだが、どうやら調味料などを加えてアレンジしてあるらしく、いつもより美味しかった。 「忘れ物はありませんか?」 「だ、大丈夫です」 アイロンがかけられたハンカチとティッシュを渡され、着替えを済ませた聖羅は鞄を持って玄関に向かった。 赤屍もついてくる。 ──良かった。 玄関のドアを見た聖羅は安心した。 どうやら鍵は壊されていないようだ。 しかし、それならどうやって入ったのだろう? 謎は深まるばかりだ。 「あの、」 靴を履いて顔を上げた聖羅の頬が、両手で包み込まれる。 そのまま唇に軽いキス。 至近距離で目と目があい、更にもう一度。 「行ってらっしゃい。気をつけて」 「い………行って、きます……」 名残惜しいと言わんばかりに甘く唇をついばまれた後、行ってらっしゃいと優しく送り出され、聖羅はくらくらしながら自宅を出た。 |