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夏真っ盛り。
今日は涼しくなるという予報が嘘のように、昼少し前から、徐々に気温が上がり始めている。
───らしい。

空調完備のマンションの一室にいる聖羅は、テレビ画面の中から外の気温を伝えているレポーターの姿を見ながら、よく冷えたフルーツたっぷりのジュレを食べていた。
赤屍が昨夜の内に作っておいたデザートだ。
こう暑いと、とてもじゃないが用事でもない限り外に出る気はしない。
家事を済ませた後は、こうして涼しい部屋の中でのんびり過ごすのが一番だ。

「気持ちいいー」

聖羅はソファの上にごろんと寝っ転がった。
見た目だけでなく、手触りからも高級品とわかるソファは、とても寝心地が良いのである。
勿論、そんなソファもこんな部屋も、とても自分で購入出来る代物ではない。
ここは赤屍蔵人のアジトの一つなのだ。

諸事情により居候させて貰う事になって数日。
ここでの生活は実に快適なものだった。
赤屍はその仕事柄、夜間出掛けることが多い。
そして、プロの運び屋らしくスピーディかつスマートに依頼をこなし、大抵朝には戻ってくる。
たまに全身返り血を浴びて血塗れになって帰ってくる事を除けば、夜間業務が中心の夫を持つ妻のような生活だった。
今日はたまたま日中に行動する依頼を受けたとかで、サラリーマンの出勤時間に出掛け、帰宅も夕方になるという。

「あ、そうだ」

テレビを見るのにも飽きてきた聖羅は、パソコンを立ち上げ、メールボックスをチェックした。
受信が一通。

「やっぱり来てた!」

差出人の名前を確認した聖羅は、嬉しそうに微笑んでメールを開いた。
それは、妹のように可愛がっている、遠縁の親戚にあたる少女からのメールだった。
夏休みを利用して婚約者が住むシチリアに旅行に行っている彼女は、毎日こうしてメールを送ってくれるのだ。

『聖羅お姉さんへ』で始まるメールには、シチリアで過ごす日々が綴られている。
レモンのグラニータが美味しかったとか、屋敷の人と海で死ぬ気でビーチバレー大会をやったとか、そういった内容が、少女らしい可愛らしい文章で書かれていた。
しかし、今日のメールには少し違った内容が含まれていた。

『荷物有難うございました。早速使ってみました。
あのYes・No枕、聖羅お姉さんも使ったんですよね?
実は、ちょっとメールでお話するには恥ずかしくなってしまうような大変な事になっちゃったんです…。
私の使い方が間違っていたのかもしれません。
せっかく送ってくれたのにごめんなさい』

聖羅はちょっぴり罪悪感を感じつつ、返事のメールを打ち始めた。
聖羅と同じく、絶り…底無しの体力を持つ恋人に悩む少女に、MAXUBEXに作って貰った発明品を横流ししたのだが、どうやら上手くいかなかったらしい。
少しでも助けになればと思ったのだが、残念だ。
メールを返信し終わる頃には、そろそろ夕刻になろうかという時間帯になっていた。

「ご飯の用意しないと」

よいしょ、と立ち上がってエプロンを着ける。
今日はナスとトマトのスパゲティにしよう。



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