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今日は生憎の雨模様。

GWを利用してせっかくネズミーリゾートにやって来たというのに、出鼻を挫かれた気分である。
レジャーは天候次第で意気込みが変わってくるものなのだ。

「まあいいじゃありませんか。明日は晴れるそうですし」

バスルームから戻って来た赤屍にそう訴えると、笑って返されてしまった。

「今日遊べなかった分は、明日取り戻せばいいでしょう」

喉が渇いたのか、備え付けの冷蔵庫からミネラルウォーターを出して、バスローブ姿のままそれを煽る。
なまめかしく上下する白い喉元を見つめながら、聖羅はそれもそうかと思い直した。
二泊三日の行程なのだから、確かにもう一日残っている。
明日はきっと思う存分楽しめるはずだ。
そう考えると、随分気が楽になった。

「そう…ですね。明日まだ遊べるんですよね!」

「そうですよ。やっと機嫌を治して頂けましたか」

赤屍がクスリと笑って聖羅の横に腰を降ろす。
高級ホテルにも劣らない、リゾートランドの施設内にあるこのホテルの室内に、彼は実に優雅に溶け込んでいた。
そういえば、今日ウォーターマウンテンに乗った時の写真でも、酷い顔で写っていた聖羅に比べて、赤屍は涼しい美貌を崩すことなく、余裕の微笑で写っていた。

しかし、夢の国など柄でもないだろうに、よく付き合ってくれたものだと思う。
…まあ、無言の威圧感を感じたのか、着ぐるみのキャラクター達が怖じ気付いて近寄って来なかったのはご愛嬌といえるだろう。
ビクビクしながらこちらを見ている熊やらアヒルやらを見て、

「動物は血臭に敏感ですからね」

などと冗談を飛ばしていたくらいだ。
赤屍もそれなりに楽しんでいてくれたに違いない。
聖羅は隣りに座る男の肩に頭をもたせかけて微笑んだ。

「赤屍さん…有難う」

「何です、急に」

腰に回された腕がくすぐったい。

「だって…本当は、もっと別の場所が良かったんじゃないですか?」

「そんなことはありません。聖羅さんが楽しいと思えることが一番ですからね。恋人のお願いを叶えるのも、男の役目ですよ」

「赤屍さん……」

二人の顔が近付き、唇が重なろうとした、その時──

──ピピピ……
無粋な電子音が響いて、縮まりかけた距離がまた離れた。
呼び出し音が鳴り続けている聖羅の携帯のディスプレイには『蛮ちゃん』の文字が浮かんでいる。

「……………」

赤屍は無言で携帯を取り上げると、電源をオフにした。

「…美堂君に、この旅行のことを?」

「えっ、はい、喫茶店で会った時に偶然GWの話になって、その時に」

では、この時間帯を狙って電話をかけて来たのは、間違いなくわざとだろう。
携帯片手にザマを見ろと言わんばかりの表情をしているに違いない邪眼の男の姿を想像しつつ、赤屍は物騒な微笑を浮かべた。

「なるほど…では、気の毒な奪還屋のお二人にも、お土産を買って行って差し上げなければいけませんねぇ?」

果たして赤屍の言う『お土産』がなんだったのか。
夏実やレナに何を貰ったのか教えて欲しいとせがまれても、銀次はただ震えるばかりで、蛮は頑として絶対に口を割らなかった。
それはさておき、旅行から帰宅した貴女の手元には、沢山の記念品が残った。
ぬいぐるみなどのグッズや、チョコレートやクッキーなどのお菓子類。
ご近所や知人に配る為に買った菓子の箱。
そして、聖羅の肩を抱きながら、ネズミの耳型カチューシャを頭に付けてカメラに笑顔を向けている恋人の写真が、写真立ての中からにこやかに微笑みかけていた。



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