最近、殺人的に仕事が忙しい。 年度末だから仕方ないといえば仕方ないのだが、毎日毎晩残業で、休日出勤も当たり前という状況では、流石に転職を考えてしまう。 「だから、私のところに永久就職すれば良いと、常々言っているでしょう」 湯上がりの赤屍が、書き上げたばかりの履歴書を確認している聖羅を見て、さらりと言った。 求人雑誌を舐めるようにして読み、悩みに悩んだ末に書いた履歴書だ。 聖羅はそれを明日投函しようと決めていた。 「籠の中の生活は楽ですよ?」 「もう……私、真剣に悩んでるんですよ!」 まるで覚悟を試すような口調で続けた赤屍に、ちょっと怒った顔を作って睨んで見せる。 「私も真剣です。もう何度もプロポーズをしているというのに、一向に相手にして下さらないのはどなたですか?」 「赤屍さんは、『真剣に』からかってるだけでしょ」 「おや……クス」 濡れ髪も艶やかな姿でクスクス肩を揺らしている男に、聖羅は溜め息をついた。 赤屍がその前に屈み込む。 「冗談ではありません。本当に、出来るものならば、貴女を閉じ込めて、誰にも見せないよう囲ってしまいたいと思っているのですよ」 バスローブの柔らかな生地が直ぐ目の前にあり、赤屍の手が、聖羅の頬を包み込んで顔を上げさせる。 怖いくらいに甘い眼差しが注がれていて、聖羅は開きかけた口をまた閉じた。 クスッと笑んだ赤屍が、キスでもするかのように顔を近付けて囁く。 「聖羅さん、賭けをしませんか」 「賭け…?」 「ええ。貴女が再就職出来るよう、私も出来る限り協力して見守りましょう。無事に転職出来るまでね」 赤屍の吐息が唇を擽って、慣れているはずなのに、聖羅は頬を赤らめた。 「その代わり、今回だけです。もし転職した先で上手く行かなければ、貴女の負けだ。その時には、私が貴女を頂きます」 良いですね?と笑顔で脅迫されては頷くしかない。 メリットとデメリットについて深く考える暇もなかった。 赤屍が唇を重ねてきたからだ。 「クス……それでは、明日に備えて、もうお休みなさい。それとも、抱いて差し上げましょうか?」 「いいいえっ、遠慮しますっ!」 ぶるぶるぶるっ。 聖羅は慌てて首を振った。 明日も仕事があるのに、それは困る。 何しろ、この美貌の恋人は絶倫なのだ。体力がもたない。 「では、早く寝てしまいなさい。良い子ですから…ね?」 「うん…」 言われるがままベッドに横たわる聖羅の横で、赤屍が履歴書を手に取る。 素直に布団に入った聖羅を見ながら、赤屍は唇をふっと笑ませた。 籠の鳥は、籠の中に閉じ込められている為に、鎖で繋ぐ必要はない。 籠という名の檻の中で『自由』に飛び回り、さえずるからこそ、籠の鳥なのだから。 既にもう見えない檻に囲まれていることにも気付かずに、無防備な姿を見せる獲物が、彼には愛おしくてならなかった。 |