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今夜も無事依頼が完了した。

春の夜風に微かに血臭が漂うほかは、特に騒ぎになる程の変化はない。
ただ、横取りしようとした卍一族が何人かバラバラになっただけで、実に平和な夜だった。

「卑弥呼さん、依頼人(クライアント)に連絡を」

「ええ」

依頼の品を送り届けた赤屍が、本日のパートナーである卑弥呼に、依頼主に連絡するよう促す。
仕事用の薄く動きやすい衣服のポケットから、卑弥呼は自分の携帯を取り出してボタンを押した。
赤屍は見るとも無しにそれを眺めている。
裏稼業に従事する者にとって、携帯電話は必需品だ。
何処にいても、何時でも連絡が取れる携帯は、いつ依頼が来るとも知れない不安定な彼らの仕事に無くてはならない物だからである。
それ以上でも無いし以下でも無い。
──はずだった。
つい最近までは。

「終わったわ。報酬は各自の口座に。このまま解散よ」

「わかりました」

ビジネスライクな態度を崩さぬまま、連絡を終えた卑弥呼が赤屍を振り返る。
そうして、彼もまた携帯を取り出しているのを見て、卑弥呼は怪訝そうに首を傾げた。

「何? まだ連絡するところがあったの?」

「いいえ。個人的な用件です。お気になさらず」

カチカチと慣れた手つきでボタンを操作している赤屍は、どうやらメールを打っているようだった。
依頼が完了したとは言え、赤屍がこんな風にプライベートな部分を見せるのは珍しい。
まるで帰るコールをするサラリーマンのようだと、卑弥呼は少し可笑しくなった。

「へえ…あんたでも、仕事が終わったことを知らせたい相手がいるんだ」

「ええ。可愛い恋人が待っているもので…ね」

赤屍がクスリと笑って送信ボタンを押す。

「見ますか? この前、撮った写真がありますよ」

「ふぅん…どれどれ────!!!!」



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