運び屋を乗せたトラックは、夜の高速を疾走していた。 目的地は、港。 そこに密かに停泊している豪華客船に積み荷を載せ、孤島へと向かう手筈だ。 トラックの運転手の馬車とは港で別れる事になる。 今回の彼の仕事は、『港まで赤屍達と依頼品を運ぶ事』だからだ。 そこから先は、赤屍と二人きり。 その赤屍は、鎖でトラックの壁に固定された座席に座り、自らの武器であるメスを研いでいた。 シャリ、シャリ、と規則正しい間隔で響く音が、先ほどから途切れる事なく続いている。 「緊張しているのですか?」 不意に赤屍が口を開いた。 見れば、その唇にはうっすらと微笑が浮かんでいる。 まるで聖羅を試しているかのような笑みだ。 聖羅は ─────── →いいえと答えた はいと答えた 「あっ──嘘!?」 思わずポータブルゲーム器を握っていた手に力が入る。 画面の中では、イベント専用の赤屍のアップ画像が映っており、 「クス…実に頼もしいパートナーですね、貴女は」 などという誉め言葉とともに、親密度がUPした証拠の効果音が鳴ったところだった。 「一周目と反応が違う…?」 一周目では確か 「そうですか?その割には体が震えているようですが」と馬鹿にしたような台詞を言われたはずだ。 だから、その前のセーブデータからわざわざロードし直して、『はい』を選択したのに…。 二周目だからだろうか、と首を傾げながらゲームを進める。 一度クリアした後は、一周目の親密度がそのまま持ち越されるのかもしれない。 赤屍のような、冷ややかで気まぐれなキャラクターを攻略するのは非常に骨が折れたので、助かると言えば助かるシステムだ。 選択肢の正解が解り辛い一周目は、彼の機嫌をとるのに実に苦労したものだった。 クリア時の親密度がそのままならば、赤屍との親密度はMAX状態のはず。 そう思って先に進めてみると、赤屍の対応は一周目とはまるで別人のように違っていた。 細かい台詞の違いに感心しながら、ちょっと後ろめたい気持ちになる。 「でも、今回は雪彦君狙いなんだけどなあ」 弥勒兄弟は、一周目では攻略出来ない隠しキャラ扱いなので、二周目は彼らを攻略するつもりでいたのだ。 だから、船に乗り、共に行動する相手を選ぶ場面に差し掛かった時には、赤屍ではなく弥勒兄弟を選択した。 これもイベント回収率100%の為、と涙を飲んで。 |