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今夜はハロウィン。
此処無限城の下層階でも、お祭り好きな笑師の提案によりハロウィン・パーティーが開かれていた。
参加者は仮装が義務付けられている為、主催のMAKUBEXをはじめとするメンバーも皆、フランケンシュタインや吸血鬼などの仮装をしている。

「すごい…本物のお城みたい!」

バーチャルシステムを利用して不気味な古城の大広間と化した広い空間を、聖羅は感心した様子で見回した。
シャンデリアの灯りが煌めく天井には無数のコウモリがぶら下がり、縦長のゴシック風の窓の外には稲光が走る様まで再現されている。
恐らくは床に敷かれた真紅の絨毯もバーチャルなのだろう。

「これ、全部MAKUBEXが?」

「まあね。でも、プログラミング自体は簡単だから、大して苦労はしなかったよ。むしろ、料理を準備してくれた朔羅達のほうが大変だったんじゃないかな」

MAKUBEXは肩越しに後ろを振り返った。
料理の並ぶテーブルに張り付いた奪還屋の二人に、魔女の格好をした朔羅が甲斐甲斐しくパンプキンパイを取り分けてやっている。

「何日も前から準備してくれたんだから、感謝しないとね」

「本当に笑師のイベント好きには困ったものですよ。巻き込まれるほうが苦労するんだから。聖羅さんも急な誘いで戸惑ったでしょう?」

吸血鬼に扮した花月が、聖羅に赤い液体で満たされたグラスを手渡す。
一瞬躊躇した聖羅だったが、「大丈夫、ストロベリー・ティーですよ」と微笑まれ、安心してグラスを受け取った。

「MAKUBEX、招待客は全員揃ったのか?」

狼男の仮装をして花月の傍らに控えていた十兵衛が尋ねる。
MAKUBEXが答えようと口を開いた途端、会場の入口辺りにざわめきが走った。
見ると、漆黒のローブに身を包んだ長身の男がこちらに歩み寄ってくるところだった。
その姿を見た聖羅が、あっと声を上げる。

「赤屍さん…?」

「今晩は、聖羅さん。貴女も招待されていたのですね」

魔女と魔物が集うハロウィンに相応しく、妖艶な微笑を浮かべた赤屍は、黒いコートの代わりに黒いローブを纏い、大きな鎌を手にしていた。
無慈悲な死神の装いが白皙の美貌に怖いくらいによく似合っている。

「これはこれは…実に可愛らしい天使(エンジェル)ですねぇ。白い翼が良くお似合いだ。むしり取って天界に帰れなくしてしまいたいくらいに、ね…」

「…ど…どうも…」

赤屍の視線が身体の上を滑り、美しい唇に浮かぶ微笑がますます深くなるのを見て、聖羅はゾクゾクと寒気を感じて震え上がった。

「やあ。よく来てくれたね」

花月が眉をひそめて二人の間に入ろうとするのを遮って、MAKUBEXが赤屍に声をかける。

「お招き有難うございます、MAKUBEX君」

「どういたしまして。それは死神かい?」

「ええ、魔王と迷ったのですが、こちらを勧められまして」

 誰 に !?
聖羅は思わず心の中で突っ込んでいた。

「そう。いいんじゃないかな。『魔王ジャッカル』も見たかったけど」

「クス…では、それは次の機会にでも」

いつの間にか聖羅の隣りに移動していた赤屍が笑う。
MAKUBEXは「それは楽しみだね」と告げると、まだ挨拶があるからと言って、花月と十兵衛を伴ってさっさと立ち去ってしまった。
残されたのは、明らかに職務の為ではなく自分の楽しみの為に魂を狩りそうな死神と、それに魅入られてしまった哀れな天使が一人。

「今夜はたっぷり楽しみましょうね、聖羅さん」

にこにこと楽しげに微笑む赤屍に肩をポンと叩かれた聖羅は、怯えきった顔で彼を見上げた。
悪戯かご馳走か。



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