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クリスマスまで、あと2週間。
街はすっかりクリスマスムードに染まっていた。
輝くイルミネーションに、ショーケースに並ぶスイーツの数々──
そして、ここ、裏新宿にほど近い通りにおいても、偽サンタ達によるクリスマスケーキの宣伝パフォーマンスが行われていた。

「こら!銀次、もっと声出せ!」

「無理だよぉ〜蛮ちゃん。朝から何も食べてないんだもん。俺、もう限界……」

サンタの衣装を着た銀次が、身の丈ほどの大きさのプラカードを抱えたまま、その場にへたりこむ。
同じくサンタの扮装で、前後に広告付きボードを提げたサンドイッチマンをしていた蛮は、舌打ちして軽く顎をしゃくって見せた。

「なに情けないコト言ってやがる。見ろ!あっちはもう終わるぞ」

蛮の視線の先では、ミニスカのサンタガール姿の聖羅が、にこにこと笑顔で本日30件目のケーキの予約を取り付けている最中だった。

「有難うございましたー! イブのご来店をお待ちしております」

ケーキを予約した客を見送り、ふうと息をつく。
最初は何の羞恥プレイかと思ったこの格好でのアルバイトにも、随分慣れてきた。
仕事も順調に進み、あと一人でノルマ達成となる。
蛮と銀次にとっては死活問題である生活費調達の為のアルバイト、聖羅にとっては「ちょっとした小遣い稼ぎ」の仕事だったのだが、意外な才能を発揮したお陰か、予想以上の報酬が手に入る事になりそうだった。
これで物価が上がる年末年始も少し余裕をもって過ごせるはずだ。

「ケーキの予約を受け付けているのですか?」

記入済みの注文用紙をチェックしてケースにしまっていると、ふと背後から声をかけられた。

「あ、はい! ご注文でしょう───…か……」

振り返った聖羅は笑顔のまま固まった。
相手も笑顔。
クリスマスムード一杯の街に似合わぬ黒衣の男の姿に、向こうのほうで銀次が激しく震え始めたのが見えた。

「ええ、一つお願いします。この用紙に記入すれば良いのですね」

カチコチに固まっている聖羅の手から注文用紙をひょいと取り上げ、赤屍は流麗な筆跡で必要事項を書きつけていく。

ケーキ……食べるんだ……
聖羅はようやくフリーズから回復しかけた頭の片隅でそんな事を思った。

「配達はして頂けないのですか?」

「も…申し訳ございません、当店ではデリバリーのサービスは行っておりません」

「なるほど。では、個人的に頼むとしましょう」

逃げ出そうとする銀次の頭を掴んで蛮が止めているのが視界の隅に映る。

「えっ……だ、誰に、ですか…?」

「勿論、可愛いサンタのお嬢さんにですよ」

そう笑う赤屍の瞳は、しかし欠片も笑っていない。
聖羅は銀次に負けないぐらい激しく震え始めた。

「どっ…どうし…」

「どうして、ではありません。そんな格好をして不特定多数の男の欲望を煽りたてておきながら、ただで済むとでも思っているのですか? 私が貴女に想いを寄せている事も、独占欲が強い男である事も、良くご存知のはずでしょう?」

相変わらず笑顔のまま赤屍がすっと顔を近づけてくる。

「心配しなくても、楽しいクリスマスにして差し上げますよ。一生忘れられないくらい楽しいクリスマスに、ね…」

嫉妬に狂った魔人と過ごす楽しいクリスマスまで、あと2週間。



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