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聖羅の背を見送った老紳士の顔から笑顔の仮面が消える。
女の子の手を引いた彼が建物の角を曲がると、そこには黒衣の男がひっそりと佇んでいた。
運び屋の赤屍蔵人だ。

「博士(ドクトル)」

黒い帽子の縁に手をかけた赤屍が少女に呼びかける。
それとともに、老紳士は繋いでいた手を離して、従者の如く静かに少女の背後に控えた。

「いかがでした、彼女は」

「呆れるほど平凡で善良な娘だ」

少女は淡々とした口調で答えた。

「だが、だからこそキミのような厄介な男に好かれるのだろうな、Dr.ジャッカル」

「そうかもしれません」

赤屍はさらりと肯定してみせた。
帽子の落とす影の下で薄く整った唇が微笑む。

「彼女にとっては不幸なことかもしれませんけれど、ね…」


職場に戻った聖羅は、変わらずサンタガールの恰好のまま仕事を続けていたのだが、ふと、人混みの中をこちらへ歩いてくる長身の人物の姿を見つけて声をあげた。

「赤屍さん!」

「こんにちは、聖羅さん」

目の前までやってきた赤屍が切れ長の瞳を細めて微笑んだ。

「可愛らしいサンタさんですね。お仕事お疲れ様です」

「赤屍さんもお疲れ様です。お仕事…ですよね?」

彼が纏うのは、いつもの帽子にコート。
つまりは仕事着だ。
だから仕事帰りかこれから仕事なのだろうと考えてそう返すと、赤屍は「ええ」と微笑した。

「先ほどある人を運んで来たところです」

「ああ、やっぱり。クリスマスの日まで大変ですね」

「それは貴女も同じでしょう」

赤屍がクスッと笑う。

「今日は早番でしたか。では、夜は空いていますか?」

「はい、今日は5時上がりです。明日も仕事ですけど」

土日祝日は当然仕事だ。
ついでに明日はクリスマス後の片付けもある。

「では、ディナーにお誘いしても?」

「え、えっ…ディナー!?」

「今日はクリスマスですから」

「そ…そうですねっ、クリスマスですからねっ!」

テンパりながら返せば、美貌の運び屋は艶やかに微笑んだ。

「それでは、お仕事が終わる頃にお迎えに上がります」

また後で。

コートの裾を翻して去っていく赤屍の後ろ姿をぼうっとしたまま見送っていると、休憩から戻ってきた同僚に顔の前で手を振られて怪訝そうな顔をされてしまった。

日付が変わるまでがクリスマス。
どんなに忙しくても、良い子にしていればサンタクロースはちゃんとプレゼントを持ってきてくれるのだ。
それは赤い服ではなく、黒いコートを着たサンタさんかもしれないが。



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