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「あっ、赤屍さん!いらっしゃいませ」

店の奥のテーブル席を片付けていた聖羅が、赤屍に気付いて声を上げる。
途端に、一段と甘い微笑が赤屍の唇に広がった。

「今晩は、聖羅さん。様子を見に来たのですが、随分、好評のようですね」

「本当に!私も驚きました!」

接客に戻ったGBの二人を見遣って、聖羅も笑う。
店内はかつてないほど賑わっていた。
夏実はレジにかかりきり、レナはカウンターから出られないほど忙しい。
波児は新聞を広げる暇などなく、ひたすら珈琲を淹れ続けていた。

「昼間は男のお客さんが多かったんですけど、夜になってから女のお客さんが増えて来たみたいです」

「ああ……誰かさんの情報操作のお陰、でしょうねぇ。ホストクラブに行くには、まだ時間が早いですから、開店までの時間調整に丁度良いのでしょう」

「あっ、なるほど」

確かに、店内の女性客は、どちらかというと気合いの入った服装や、高級そうな服を着た女性が多い。
レジで取り出したお財布にギッシリ万札が詰まっていたり、カードで会計をする客もいた。
これからホストクラブに行く女達と言われれば納得である。
さりげないスキンシップに慣れているのか、通りがけに蛮の腕に触って呼びとめたり、銀次に向かって「可愛いわね」と意味ありげな笑顔を向けるのも、なるほど、と思える事ばかりだった。

「どうです、売り上げは?」

「それはもう!今日一日だけで三ヶ月分くらい稼いじゃいましたよ!」

「それは良かった。私としても、馴染みの店が潰れるのは困りますからね」

潰れるの前提か!!
立て続けにブルマンを淹れながら、波児は心の中で叫んだ。
流せるものならば、血の涙を流していただろう。

「でも…ちょっと気になったんですけど、男の人のほうが、一人あたりの客単価が低いんですよね」

「ふむ。珈琲だけしか頼まない客が多いから、ですか?」

「そうだと思います。女性は飲み物とケーキのセットがメインで出てるから、余計にその差が気になっちゃって」

聖羅はパパッと帳簿を捲って金額を確かめながら、声を落とした。
その間も、蛮と銀次は接客に精を出している。
蛮は意外にも才能があるのか相手が女だからか、優雅な物腰で丁寧な接客をしており、普段とは別人のようにも見えた。
銀次は元気の良さと、人懐っこさが魅力で、女性客と楽しげに話していたかと思うと、ちゃっかり追加の注文を取り付けていたりする。

「そうですねぇ…何か、特別メニューを作るとか、珈琲以外のサイドメニューに特典をつけてみては如何です?」

「特典?」

「ええ、例えば、ナポリタンのセットを頼んだお客さんは、ウェイトレスさんとジャンケンして、買ったら珈琲一杯オマケする…とか」

何処のメイド喫茶だ!
立て続けにブレンドを淹れながら、波児は心の中で叫んだ。
流せるものならば(ry

「ああ、それとも、服装が悪いのでしょうか?女性の場合、妙に凝るよりも、シンプルにエプロン姿のほうが良いと思ったのですがねぇ」

「うーん…じゃあ、明日は、チューブトップに短パンにしてエプロンを付けてみましょうか?そうしたら、ぱっと見、エプロンしか見えなくて、裸エプロンに見えません?」



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