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ネオンが瞬き始めたばかりの宵闇の街を、男はコートの裾を優雅に翻しながら歩いていた。
裏新宿からほど近い、とある通りに差し掛かると同時に、その足がふと止まる。
そこには、見慣れた一軒の喫茶店。
Honky-Tonkという名の店だ。
今、その店の前には、ズラリと行列が出来ていた。
老若男女入り混じった列を見て、男の口許にうっすらと笑みが浮かぶ。

「どうやら上手くいったようですね」

そう呟くと、男は行列を無視して、喫茶店のドアへと手をかけた。

「いらっしゃいま──ちっ、クソバネかよ」

店内に入って来た赤屍を見るなり、悪態をついた蛮は、危うく持っていたトレイを自慢の握力で握り潰してしまうところだった。
顔をしかめて嫌悪の表情を示してはいるが、そこには、見られたくない姿を見られてしまったとでもいうような、僅かな羞恥と戸惑いが含まれている。
そして、無論、それを見逃す赤屍ではなかった。

「なかなかお似合いですよ、美堂君。想像していたよりも、ずっと様になっているようで…いっそ、このまま転職しては如何です?」

そう誉めて、含み笑う。
案の定、蛮は怒りに満ちた眼で赤屍を睨みつけてきた。

「テメェ──俺様に喧嘩売ってんのか?」

「いえ?誉めて差し上げただけですよ」

蛮をからかうのは、プライドの高い野良猫の神経を逆撫でしてやるようで、実に楽しい。

「この──ッ!!」

「蛮ちゃあん、遊んでないで手伝ってよ!俺だけじゃ、注文回りきれないよ!」

狭い店内を忙しく行き来している銀次が、蛮の文句を遮った。
二人とも、いつものラフな服装と違い、白のウィングカラーのシャツに、黒の蝶ネクタイと黒のベスト、黒のズボンと黒靴という格好だった。
ウェイターというよりもバーテンダーに近い装いは、聖羅と赤屍が相談して決めたものなのだが、勿論、二人は知るよしもない。

「オイ、銀次!!誰が誰と遊んでるように見えるってェ!?」

「いたいた痛い!痛いよ!蛮ちゃん!!」

どうやら怒りの矛先は赤屍から銀次へと移ったらしく、蛮は両の拳で銀次のコメカミをグリグリと抉っている。
そんな二人の姿に、近くの女性客から、クスクス笑いが漏れた。



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