3/3 


赤屍蔵人が子猫を飼い始めて1ヶ月。

何処から漏れたものか、あのDr.ジャッカルが子猫を飼っているという噂は、たちまち裏稼業を営む者の間に広がっていった。
もっとも、その真偽を本人に直接確かめようなどと考える勇者は少なかったが。

「それで、卑弥呼ちゃんたら、赤屍さんに子猫を渡すなんて、黒豹の檻に放り込むようなものだなんて言うんですよ。だから、私、言ったんです。『赤屍さんはちゃんと面倒見てるし、子猫もすっかり懐いてますよ』って」

聖羅は赤屍の淹れた紅茶のカップを手に、些か憤慨した様子でそう捲し立てた。
濃過ぎず、薄過ぎず。
淹れたてである無しを除いても、彼の紅茶は実に美味しい。
赤屍は珈琲より紅茶派であるらしく、こうして彼の自宅を訪ねて来た時に振る舞われるのは、もっぱら紅茶がメインだった。
勿論、お茶請けの菓子も全て赤屍の手作りである。

「おやおや……ああ、ダメですよ。貴方のおやつはこちらです」

すらりと長い足に手をかけ、にゃあと可愛らしく鳴いて菓子をねだる子猫に、赤屍は猫用のドライフルーツを一切れ取ってやった。
子猫の為に買った離乳食の一つだ。
一口大に小さく千切って口に運んでやれば、子猫は「これじゃないのに…」と言いたげな眼差しを向けながらも、大人しくモグモグとそれを食べる。
聖羅は甘ったれた子猫の様子を見て、クスクス笑った。

「本当、この姿を卑弥呼ちゃんに見せてあげたいです。赤屍さんが甘やかすから、すっかり甘えん坊さんになっちゃって」

「そんな事はありませんよ。躾は厳しくしましたからね。甘えん坊なのは元からなのでしょう」

この1ヶ月ですっかり赤ちゃんから幼児に成長したこの子猫は、赤屍の言う通り生来の甘えん坊らしく、聖羅が訪ねて来ると大喜びで出迎え、足に擦り寄っては抱っこをねだるのだった。
躾が行き届いているのも本当のようで、トイレやお預けなどもちゃんと出来るお利口さんだ。

「一緒に眠りたがるのだけは、どうにも治らないようですが…」

「それは仕方ないですよ、子猫なんですから」

お腹を見せてゴロゴロ言っている子猫に「ねー」と笑いかける。
すると、赤屍は意味ありげな顔でクス…と小さく笑って見せた。

「おや。寝室に猫を入れて困るのは、貴女でしょう。それとも、私達が交わる姿を見せて性教育でもしますか?」

「!!ダメっ! 絶対ダメですっ!!!」

「クク…」

こうして、二匹の子猫は、今日もたっぷりと愛情を注がれ、蕩けるほどに甘やかされて、幸せな日々を過ごしている。
大きいほうの『子猫』が赤屍に連れられて寝室に入る時には、小さいほうの子猫はドアの前でにゃあにゃあ鳴いて寂しがるものの、暫くすると諦めて、ハウスで丸くなって二人が出て来るのを待ちながら眠ってしまうのだった。
どちらの子猫も物覚えが良く、飲み込みが早い事が、赤屍の自慢である。
彼の飼育は実に順調に進んでいた。




 戻る  
3/3

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -