最悪だ。もう…なんていうか本当に最悪。
まさか、誰も食べるなんて思わないじゃない。
私がトイレに行ってるほんの数分間。
何が起こったのか私は安易に想像できた。


事の始まりは…そう、ある生徒に強力な惚れ薬を作ってくれと頼まれたことから始まる。
彼女、ハリーのことが好きらしいんだけど、どんなに薬を作っても失敗ばかり。
だから私に頼んだってわけ。そりゃ最初は乗り気じゃなかったけど、
お金を払うってまで言われちゃね、実験にも資金は必要。
金に目が眩んだってわけでは…まああるけど。
ハリーには悪いけど、ほんの数時間だけだから我慢してね。

でもこの惚れ薬、実はまだ未完成。仕上げの魔法をかけてない。
それは彼女は魔法をかけなきゃいけないから、私の役目はこれでおしまい。
つまりこのままの惚れ薬入りチョコレートをハリーが食べてしまったら、
私のことが好きになっちゃうってこと。
仕事を一段落させて、後片付けをしていたら時計の針は23時をまわっていた。
さすがにこれはまずい。急いで暗所でも見えやすくなる薬を作り、飲んだ。
これで明かりをつけなくても見回りの先生に見つからない。
そう意気込んで私は研究室を後にした。



なんとか見つからずに寮まで辿り着けた。辺りは本当に静まっていて、
この世界には私しかいないんじゃないかなんて考えながら寮のドアを開けた。

就寝時間はとっくに過ぎている。談話室はいつも通り暗闇に包まれていて、
もうここまできたら大丈夫だろうと灯りをつけた。

重たい荷物をソファにすべて置き、トイレに行った。
ほんの数分間。たったの、ほんの、数分間。
みんな寝静まった中、誰かが寮に入ってくるだなんて誰も思わない。
まあ、私も不用心に惚れ薬を置いたのがそもそもの間違いだったんだけど…

そんな可愛いラッピングがしてあったら誰だって口にしちゃうはず。
うん、絶対そう。だから私の実験は大成功!なんだけど…
ああ本当…史上最悪の事件が起こってしまったみたい。

トイレから帰ってきて目を疑った。
そこにはドラコ・マルフォイがあの包み紙を手にとってまさに口に入れた瞬間だった。

だめ!なんていう言葉すら出てこなかった。
余りにも咄嗟のことで驚いて、声が出なかった。

「……ド、ドラコ?」

非常にまずいことになった。最近、ただでさえ気まずいのに。
…気まずい、というか、向こうが勝手に私を避けてるっていうか。
六年生になってからそれをさらに実感した。

「アルディス、アルディス…!」

ずんずんとこっちへ向かってくるドラコの瞳には私しか映っていなかった。
後ずさりをしても後ろはただの壁。
抵抗もむなしく、私はドラコに包まれて身動きがとれない状況になっていた。

「ごめん、ドラコ!離して!ちょ…!んんっ!」

突然のキスに戸惑いながら、ドラコの甘いキスに全身が溶けていくような感覚に襲われた。
どれだけ長い間していただろう。ドラコの舌が私の口内をどんどん犯していった。
歯列をなぞられるだけで電気が走ったように頭が真っ白になった。
どれだけ逃げても、追いかけられて舌が絡まる。
私の唇からはどちらの唾液かわからないものが流れていた。
やっと唇が離れ肩で息をしていると私の目を見つめながらドラコも荒い息をしていた。

「アルディス、好きだよ、愛してる。君のことが好きで好きでたまらない」
「な、えっ、ちょ…待って待って!」
「待てないよ、さあこっちへおいで」

…思ったより強力だ、このホレ薬ただ物じゃない。
あの普段クールでひねくれ口ばっかり聞く口が、
今では愛を囁くだけのキザ男に成り代わってしまった。

「ほら」

これはもう、素直に従うしかない。
私は言われたとおり、ドラコの隣にソファで腰掛けた。

「…ずっと、ずっと君とこうしていたかった。」

ドラコは私によりかかりこちらを向いた。ドラコの瞳に戸惑った私の表情が映る。
惚れ薬の効果をすぐに取り消すには解毒剤を飲まない限り治らない。
…本当解毒剤でいいのかしら。毒じゃないけど。
ドラコに迫られながら必死に鞄を漁って解毒剤を見つけだした。

「ねえ、なんでアルディスは僕だけを見てくれないの?」
「え?」

いきなりの質問に素っ頓狂な声をあげてしまった。

「僕は君だけしか見てないのに、君はいつも違うところばかり見てる!
 もう僕以外の男は誰も見ないでくれ!特にポッター!」
「ちょちょちょ、ちょっと待って!」
「待てない…!僕は…君のことが好きなんだ。君をめちゃくちゃにしたい」

真っ正面でこんな大胆に、しかもあのドラコに
こんなことを言われて赤面しない女子なんていないだろう。
もう少し、このままでもいいかななんて思ってしまったけど、そんなの絶対いけないこと。
魔法の力でしか愛せないのは本当の愛じゃない。

「愛してる、愛してるよ」

耳元で囁かれてながらソファに押し倒され、
危うく左にもっていた解毒剤を落としそうになった。
ドラコの視線が私の首筋に落ち、キスマークをつけようとした時、

「ドラコ…」
「ん?」

なるべく色っぽい声を出して、解毒剤を私の口に流し込んだ。
偉く苦いその液体を戸惑うことなくドラコへと口移しで飲ませた。

「んっ…、んぅ、」

ちゅ、と名残惜しそうに唇が離れると、段々我に返ったようにドラコの顔が青ざめていった。







「本っっっっ当にごめんなさい!」

ドラコは一向にこっちを向いてくれる気配も見せずにただ黙って背を向けていた。

「私の不本意だったの、こんな思いさせて本当にごめんね」

まだ、こっちを向いてくれない。

「ごめん…ごめんなさい…」

視界がぼやけた。下を向くとポタポタと涙が自然に落ちていった。
すると、暖かい温もりが伝わってきた。

「もういいよ。だから泣くな、泣くなって」
「本当にごめん…」
「謝るな、とにかく今日は寝よう」

おやすみ、と言って女子部屋と男子部屋の前で分かれた。
明日どんな顔してドラコに会えばいいのだろう。








ドラコが飲んだのは惚れ薬ではなく、真実の薬と知ったのは、もう少し後のお話。





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