:: 小さな世界で繋がった二人 | ナノ

02:とある日のティータイム


亜璃は上機嫌だとテンポの悪いステップを踏む。「え?それウケ狙いじゃないの?」と思わずには居られない程テンポが悪い。初めてそのステップを目の当たりにした時は、ふざけてるんだと思ってたけど『ガチ』である事を知ったのはソレを3回目に見た時。
俺自身もリズム感が良い方では無いのかもしれないけど、曲に合わせてテンポを取ったりスキップとかも問題無く出来る訳で。無意識にあんなテンポでステップを踏めるのは(意識しても)難しいであろうソレを上機嫌にする亜璃の姿は可笑しくて、思わず笑ってしまったら一週間口を聞いてくれなくなった。
それ以降俺に笑われたからなのか暫くの間そのステップを見なくなったけど、やはり人間と云うのは体に染み付いたものを簡単に払拭出来ない生き物の様だ。
上機嫌になった亜璃が無意識に踏んだそのステップ。相変わらず不自然極まり無いそれ。しかし不思議な事に久しぶりに見たそれに以前の様な可笑しさは感じなくて。むしろ亜璃らしいな。なんて思えて、その姿を見て笑う事は無くなったし彼女の機嫌が良いことを知る判断材料になった。


「亜璃ちゃん、昨日の夜すごく機嫌が良くて気持ち悪かったの。」
「あのステップ踏んでたんだ?」
「んーん。」


そう言って首を横に振る女の子、君嶋瑠璃ちゃんは亜璃の8つ離れた妹だ。姉妹なだけあって瑠璃ちゃんの容姿は亜璃に良く似ている。きっと亜璃の8年前ってこんな姿だったと思う。しかし瑠璃ちゃんは亜璃よりもしっかりしている。亜璃と比べてと言うよりも11歳の女の子にしては、しっかりし過ぎている。

休日の昼間。実家から程近い距離にある亜璃の部屋に瑠璃ちゃんは良く遊びに来る。
実家からも通える大学に進学した亜璃が、実家から近い距離で一人暮らしをしているのは、彼女のご両親が少しでも自分で生活出来る様にと進学を気に一人暮らしを進めたらしい。だけど大事な娘(というより亜璃の性格)を心配したのと、瑠璃ちゃんが淋しがらない様にとすぐに行き来出来る距離に部屋を借りたらしい。亜璃も亜璃でお母さんの手料理が食べたいと言う理由で週3回は実家に晩御飯を食べに行く。
地元を離れた俺と、うちの家とは違う環境を、仲の良い家族を、少し羨ましく思えた。


「じゃあ鼻歌でも唄ってた?」
「そうなんだけど、やっぱり亜璃ちゃんは何かズレてるかも。」
「どうゆう事?」
「最近の曲とか耳馴染みの曲じゃなくて聞いたこともないメロディだったから『亜璃ちゃんのオリジナル?』って聞いたの。」
「そしたら亜璃は何て?」
「『これ?良いメロディでしょ。どっかの裸族の民族音楽だよ。』って。」
「………そう言えば一昨日、旅番組か何か見てた気がするな。」


一昨日の夜バイトが終わってから亜璃の部屋に来て早々、提出が迫った課題に手を付けた俺の横で亜璃はテレビを見ていた。確かその番組は芸人が世界を旅するという内容でアマゾンとかその辺の裸族の村に行くとかって内容だったような。


「流石亜璃ちゃんと言うか、なんか自分の中で新しいブーム見つけちゃったみたいな感じだったよ。そのうち凛くんに『旅行に行きたい』とか言い出すかもよ。」
「いやー、幾ら亜璃でもそこまで影響されないでしょ?」
「私がなーにー?」


お茶を淹れに行っていた亜璃が戻ってきた。お盆の上には瑠璃ちゃん用のホットミルク、亜璃用の番茶、俺用のブラックコーヒー。
淹れる手間を考えて、俺は亜璃と同じもので良いよと言っているのだが亜璃はいつも違う飲み物を用意する。理由は違う飲み物だと一度で二度楽しめるから(つまり俺の分まで横取りする為)との事。


「昨夜、機嫌が良かったんだって?」
「え?………あー、だって凜がコレ買って来てくれるってメールくれたから。」


そう言って満面の笑みを浮かべながら亜璃が指差したのはテーブルの上に置いてある、俺がここを訪れる前に最近近所に出来た洋菓子店で買ってきた小振りの箱。
以前ここで同じ様にケーキを買って持ってきて以来、亜璃はここのケーキが好物になった。中でもお気に入りは濃厚なチーズケーキだと言う。


「瑠璃もビックリしちゃうくらい美味しいんだから。さぁ、食べよう。」
「それじゃあ私、このチーズケーキが良いな。」
「あ!それはお姉ちゃんがねらってたやつ!」
「えー、亜璃ちゃんはまた凜くんに買ってきて貰えばいいじゃない。」
「………。」
「亜璃?」
「……可愛い妹に譲る気持ちはあるけどチーズケーキも凄く食べたいなって葛藤中。」
「…………。」
「……じゃあ、私はティラミスでも良いよ。」
「駄目!それじゃあ姉として駄目になってしまう気がする!」


瑠璃ちゃんも姉に譲ろうとしてるが本心ではチーズケーキが一番食べたそうで。亜璃も昨夜から楽しみにしてたであろうチーズケーキを可愛い妹に譲ろうとしてるが本心ではチーズケーキが一番食べたいみたいで。
こんな事なら種類を変えずにチーズケーキだけ買ってくるべきだったかもしれない。と思いながら、まずはこの場を納める為の解決策を提案してみる事にした。


「………半分っこにしたら?」
「「………。」」


え?何で二人揃って無言なの?なんて思ったら、二人揃って満面の笑顔に変わった。


「平和な解決策だね。」
「一度で二度美味しいしね。」


そう言ってチーズケーキとティラミスを仲良く半分っこにする姉妹の姿はとても微笑ましかった。


「あっ、そう言えば瑠璃。欲しいお土産ってある?」
「亜璃ちゃんどっか行くの?」
「どっか行くんだ?」
「凜とアマゾンの奥地に。」
「「………。」」
「タルッタラ〜♪」


あぁ、昨日の夜に瑠璃ちゃんが見たのはこの光景か。なんて思いながら正面に座る瑠璃ちゃんに目を向けると、亜璃の発言を聞き流すようにパクリとチーズケーキを頬張っていた。続いて隣に座る亜璃に目を向けると上機嫌に聞いたことのないメロディの鼻歌を唄っている。

そんな光景に小さく溜め息を溢し、熱いコーヒーを冷ます為マグカップに息を吹き掛けた日曜日の午後。


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