:: 小さな世界で繋がった二人 | ナノ

08:マーチングトーク


「髪の毛切ろうかなー。」
「……。」
「ねぇ!無視?」
「え?俺に言ってたの?」
「そうだよ。それで、髪の毛切ろうかなどうしようかな。どう思う?」
「いつもはそんな事聞かないのにどうしたの急に?」
「質問に質問を返さないでくれる?」


何となく伸ばし続けてる髪の毛。ショートにしたらシャンプーが楽だろうな、とは思うけど髪が伸びる度に美容室に行くのはめんどくさいと思う。ある程度の長さまで伸ばしてしまえばあとはそのままにしてても問題なんか無いし。
とまぁ、なんともズボラな理由で髪を伸ばし続けている私。だけどふと思った。「髪の毛切ろうかな」って。

いつもだったら聞かない質問。髪型だったり服装だったり、そうゆう事に関しては凜に限らず誰にも「これ似合うかな?」とか「こうゆうのどうかな?」などと相談を持ちかけたりしないし、逆に誰かに質問されても「好きにすればいいんじゃない?」と返していた。
だって、人からどう見られるかよりも自分がしたい様にするのが一番だと思うから。
凜も恐らくそんな考えの持ち主で、自分の髪型や服装とかを誰かに相談したり誰かの好みに合わせるなんて事は無いし、逆に自分の好みを押し付ける事も無い。

それなのに凜に反応を求めたのも、ふと髪の毛を切ろうかなと思ったのと同じ様に「明日のお昼は何食べようかな。」みたいなレベルの話で特別深い意味も無い。
だからもし凜が「切ってみたら?」とか「伸ばしたままでいいじゃん」なんて返事をしたら、私は本気で髪の毛を切るか切らずに伸ばしたままにするかを考えだしてしまうだろう。
「好きにすればいいよ。」と予想してた通りの答えが凜の口から零れれば、二者択一の質問をした筈なのにそんな答えに「やっぱりそうだよね。」と凜の言葉に納得している自分が居る。


「んー。凜もあまり髪型変えないよね。」
「俺は何だかんだでこの髪型が一番しっくりくるから。髪伸びるのも遅いし。」
「え?髪伸びるの早い人はスケベって言うのに?」
「え?俺ってスケベなの?」


凜の事を特別スケベだと思った事も無ければ全くそんな気が無い人だなと思った事も無い。
ガツガツしてる訳でも無ければ淡白な訳でも無く、他の21歳の男性がどうなのかは分からないけれど、多分人並みの頻度でキスだってセックスだってする。そしてそれは私もきっと同じ。

世に言うバカップルみたいにイチャイチャする事もあれば「どこの小学生だ?」と言わんばかりに二人で馬鹿みたいにふざけ合う事だってあるし、イチャイチャする訳でもふざける訳でも無く映画に出てくる老夫婦の様にただ寄り添い合ってる時だってある。
私と凜がそのうちのどれかの雰囲気で居たいなと思うタイミングみたいなのは大体一緒で、そんな全ての雰囲気が私達にとっては当たり前だと思う。


「明日は雨らしいよ。」
「そうなの?洗濯物溜まってるのに。」
「亜璃は晴れてても洗濯物溜めるじゃん。」
「駅前の雑貨屋さんで犬を飼い始めたみたいで看板犬って最近話題みたいだよ。」
「あ、その犬知ってる。白くて小さい耳の垂れた犬だろ?」
「そういえば最近ヤマダさんちのぶち猫ちゃん見ないね?」
「ヤマダさんちじゃなくてサトウさんちの猫だよ。」
「あー、アイス食べたい。」
「俺は今日はチョコモナカの気分だな。」
「え?あるの?」
「無いよ。買いに行かなきゃ無い。」
「えー、じゃあプリンだったら?」
「プリンも無い。」
「じゃあジャンケンして負けた方が……」


負けたどちらかが買いに行く。
という選択肢は無い。だって私も凜もきっと同じ考えに既に同じなってる筈だから。





「「ジャンケンぽんっ!」」
「買ったー!!」
「……次の電柱までね。」


なんて言いながらもアパートまでチョコモナカとプリンが2個ずつ入ったレジ袋をぶら下げ、もう片方の手でしっかりと私の手を繋いでくれる凜。

私の髪の毛切ろうかな発言、凜はスケベなのかどうか、明日の天気、駅前の看板犬、ヤマダさんちではなくサトウさんちのぶち猫ちゃん……

変わる話題は思い付きが多いけど、でもそんな思い付きは会話を増やし、こうやって二人で並んで歩く時間を作る。
アパートに戻って一緒にアイスとプリンを食べながら今度はどんな会話をしようか。なんて私は空いてる片手をぶらつかせながら考えた。


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