愚者の集まり

ワイワイガヤガヤした雰囲気は苦手だ。人間を陽キャ陰キャで判断するようになったのはいつ頃からだったか。その部類で考えると私は、周りの人から見たら明るくて社交的という判断をされがちだが、自己判断だと絶対的に陰キャだと思う。

「んじゃみょうじさん、俺あっち回ってくるからその辺フラフラしてていいよ」
「は、はい…」

私をこのプチパーティーと呼ばれる社交場に連れてきた会社の上司は、アルコール飲料片手に私を置いてどこかに行ってしまった。
一緒に来ているのが友達であれば即座に『ひとりにしないで…』と声を上げていただろうけど、上司相手にそんなことを言えるほどの勇気も持ち合わせていない。

「(とりあえず端っこに…)」

立食パーティー形式になっているこの場所では、至る所に飲み物や食べ物が配置してあって、それぞれ目的の場所に煌びやかな人が集まっている。そうなると私のような影の民が逃げられるような場所は少なくて。

ぐるりとあたりを見回すと、大きなガラス扉が少しだけ空いているのが目に入った。

扉の先はバルコニーになっていた。導かれるように近寄って通れるほど扉を開けると、春の夜風が頬をくすぐった。一つ息を吐くとすっと心が軽くなった気がしていて、やはりこういうところは向いてないと改めて思う。ビルの屋上になっているこの場所からは東京の街が一望できて、この景色が見れたことだけは良かったかもしれないとポジティブに捉えた。

「…はあ、疲れた」
「……」
「……うわっ」

やっと一息、と思ったところで視界の端に何かいることに気づいて視線をやると、そこには一人の男性が立っていた。私と同じように柵に持たれながら夜景に視線をやっている。

まさかこんなところに人がいるとは思っていなかった私は素っ頓狂な声を漏らし、それに驚いた彼と視線が交わった。…わ、綺麗な目。

「…えと、すみません」
「いえ、」

……。
驚かせてしまったか、と咄嗟に謝ったけれどそこからの居心地の悪さと言ったら無い。

「あの、パーティーの参加者ですか?」
「いちおう、はい」

こくり、と頷いた男性は私の質問に対してかろうじて答えてくれている、という感じだ。男性と言ったけれど青年の方がいいのかな?なんというか、私よりは年下な気配がする。


長めの黒髪を一つに結っていて、正直言って覇気がない。でもスーツは私でも見たことのあるブランドものを身に纏っていて、そのチグハグ加減が気になった。

「…こういうの、苦手ですか?」
「うん、苦手。」
「はは、ですよね。私も苦手」
「人多いし、向いてない」

ぽつり、ぽつりと会話が繋がっていく。最初の一回以降目は合わせてくれないけれど、どうやら会話はさせてくれるらしい。

私も別に中に戻りたいわけではなかったし、どうやら彼もそうらしい。利害が一致した私たちは、人見知り同士なりに色々なことを話したと思う。
彼の名前は孤爪研磨くん。年下だと思っていたが、なんと同級生であることが判明した。どんな仕事をしているかは教えてもらえなかったけれど、好きなものを仕事にしているんだと語っていた彼はなんとなく嬉しそうだった。

「……はあ、そろそろ戻らないとかな」
「うん」
「やー…戻りたくない。でも、研磨くんのおかげで助かったよ。ありがとう」

少しだけ逃げ出そうと思っていたのに、話し込んでいてだいぶ時間が経ってしまったようだ。もしかしたら上司も心配しているかもしれない。

そろそろ戻ろうと扉に手を掛けたとき、「ねえ」と研磨くんの声がした。

「……抜ける?」
「えっ、」
「俺、もうやること終わったし。帰ろうかなって」
「……えと、抜け?」

もしかしてだけど、誘われてる?研磨くんのことを見る私の顔は相当間抜けかもしれない。

「一緒にウチ、行こうよ」

あんなにチグハグそうに見えていた研磨くんの雰囲気がまるでなくなっていて、数分前とは別人のようだった。いつの間にか頷いていた私の足取りは、来る時とは反対にふわふわと浮ついていた。

そしてその後、研磨くんが有名人だと知って度肝を抜かすことになるんだけど、それはまた別のお話。

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