これまでこれからオペレッタ

ただ寒いだけで憂鬱な冬も、街のキラキラが増えていくにつれて少しずつワクワクが積もっていく。とは言っても、今年も部活三昧の聖なる日だろうと思っていた……のに。

「休み!?クリスマス当日にですか!?」
「うん。今年は日曜日だし、たまにはいいだろって烏養コーチが」
「マジですか…」

なんと想定外、今年のクリスマスは部活が休みらしい。家族で過ごすと言っていた潔子さんに羨ましいと答えながら、それであれば誘われていたクラスのクリスマス会に参加できるなと思考を巡らす。幹事は確か凛ちゃんだったから帰りにラインしてみよう。
せっかくだから買ったばかりのワンピースを着て、普段は機会がない巻き髪の練習をしてみようかな。計画をあれやこれやと頭の中で組み立てると、どんどん楽しみな気持ちが浮かび上がってきた。でもそうなると、今年のクリスマスは好きな人と一緒に過ごせないのかと思考が切り替わる。きっと今年が一緒に過ごせる最後のクリスマスだったのにな、なんて少しだけ気まぐれなコーチを恨んでみたりした。

「スガさんは予定ありますかね」
「ん?あー…あるって言ってたような?」

ぽつり、勝手に溢れてしまった言葉を今更撤回する気力もない。私の気持ちを知っている潔子さんは、少し気まずそうに眉を下げた。ああ、この反応はきっとそういうことなのかも。その先の言葉を聞きたい気持ちと聞きたくない気持ちがぐちゃぐちゃになって、そうですよねなんて誤魔化すように笑顔を貼り付けた。好きな人と一緒に過ごせないクリスマスなんて、ただのお休みだななんて、思考を外に逃したりして。

◇◇◇


___時は流れ、あっという間に12月25日。

昼過ぎにクラスの仲良い女の子と合流し、プレゼント交換会に向けてプレゼントを購入した。誰に当たるどころか男子か女子かもわからないので、無難な色と柄のハンカチを購入した。友達はネタ枠として激辛カップ焼きそばを購入して丁寧にラッピングしていた。あれだけは絶対に引き当てたくない。

「なまえ参加できないと思ってたから来てくれて嬉しいよ」
「部活休みだったからさ、嬉しいよ参加できて!」
「でもなまえとしては会えないから寂しいでしょ?好きな人とっ」

二人の友達に挟まれながらパーティー会場であるカラオケに向かう途中。一人の子が私を揶揄うように言った。
クラスの友達と一緒にいるのはもちろん楽しいけれど、プレゼントを探しながらあの人にはこれが似合うなとか、もし会えるんだったらこれをプレゼントしたかったな、もし彼女だったらな、なんて思ってしまったのも事実。今頃スガさんは何をしているのかな。

折角事前に知らされていたクリスマスの休暇だし、好きな女の子を誘ってデートに行っていたりして。わかりもしない事実を空想して自分の胸を締め付けていた。

「雪、降りそうだねえ」
「ホワイトクリスマスだね」

いかんいかん、今日はクラス会を楽しむんだ!頭の中から必死にスガさんのことを消し去るために、空を見上げて思ったことをそのまま口に出した。そこから話題は別の場所に転移して、なんでもないように繰り広げられる。

「みょうじ!こっちこっち〜!」

店の前までくると、幹事である凛ちゃんは店の外で待っていた。わたしたちを見つけると小さい手をブンブンと振って店の中に招き入れてくれる。どうやらもう集まり始めているようで、ついた人から順番に受付を済ませて宴を始めているらしかった。
そこからはもうすっかり楽しくて、さっき少しだけ考え事をして沈んだ気持ちはどこかに飛んでいった。歌って踊って食べて飲んで。凛ちゃんの幹事力は凄すぎて、次どうする?みたいなだらけかたを全くしなかった。

唯一残念だったことで言えば、なんと私が引き当てたプレゼントは、あの友達が選んだ激辛カップ焼きそばだったこと。これだけは嫌だったのに!って叫んだら、今まであんまり喋ったことがなかったクラスの男子も爆笑していて、正直悪い気はしなかった。
今まで部活ばっかりでクラス行事とかなかなか出れていなかったのを反省しつつ、今日で親睦が深まったから参加してよかったなって改めて思ったり。激辛カップ焼きそばの感想教えてねって色んな人に言われたけど、家に帰ってお父さんにでもあげることにしよう。

「んじゃここで解散!私まとめてお会計するからみんな先出て!二次会行く人は集まっといてね」
「本当に何から何までありがとね」

楽しい時間はあっという間で、クラス会はお開きになった。突然参加の私を快く受け入れてくれた幹事の役に立ちたくて会計係をかって出た私は、凛ちゃんと一緒にカラオケのお会計に並んでいた。さっきまでワイワイしていた声が遠くなると、途中で置いておいていた考え事がまた頭の中に戻ってくる。
スガさんは今頃可愛い彼女とデート中かな。彼女じゃなくても、好きな人と一緒にいるのかな。告白とか、しちゃうのかな。

「あれ、みょうじ?」
「え」

後ろから、驚いたようなスガさんの声がした、気がした。スガさんのことを考えすぎてとうとう幻聴が聞こえるようになってしまったのかと頭を抱えそうになりながら反射的に振り返ると、やっぱりそこにはスガさんがいた。

「なんでこんなとこにいんの!」
「スガさんこそ、デートじゃ」
「? デート?誰が?」
「あ、いや、えっと、私はクラスのクリスマスパーティーで」
「マジ!?俺も俺も」

スガさんもここでクラス会をしていると言う。なんだ、デートじゃなかったんだ…。ほっと嬉しくなって思わず頬が緩んでしまうのがわかる。
隣で一緒にお会計を待っていた凛ちゃんは私の手から伝票を抜き取ると、言ってきなよと目配せをした。どうしようと視線を巡らせている間に、スガさんが「折角だし、ちょっと喋る?」ってにっこり笑った。

「まさか休みの日までみょうじに会うなんてなあ」
「すみません、私で…」
「いや、違う違う」

外には私のクラスメイトがいるし、スガさんはまだクラス会の途中だということで階段の踊り場に座り込む。ひんやりとした空気が肌を指すのに、隣にスガさんがいて二人きりだと思うと暑くてたまらなかった。

「あの、私は会えて嬉しいです」

勝手に口から言葉が漏れていて、その紡がれた日本語の意味を理解した私の頬にはさらに熱が集中する。とんでもなく恥ずかしいことを言ってしまった。これじゃまるで、私がスガさんのことを好きってことがバレバレ。告白してしまったようなものだ。

「俺も会いたかったよ」
「…へ? いやあ、本当ですか?毎日会ってるのに飽きません?」
「んー、引かない?」
「え、引かないです」
「毎日、ずっと会ってても飽きねぇなって思うよ」

どうしよう私、都合の良い夢を見ているのかも。可愛い彼女とデートしているはずのスガさんが実は私と同じようにクラス会に参加していて、そこでたまたま遭遇して。ちょっと話そうって言われて話していたら思わず告白みたいなことをしちゃって、そのお返しが俺も会いたかったって……あれ、どこからが夢だっけ?そもそも、私今こんなところで何してるんだっけ。

「……みょうじは何してるかなって思ってたよ、今日」
「えっと、あの、」
「俺は寂しく独り身組でクラス会だけど、みょうじは誰かとデートしてんのかなとか」

勇気を出してグルンと首の向きをスガさんの方に向けたけど、彼は自分の足元を見つめていて視線が交わることはなかった。それでも目を離すことはできない。

「やだなー、俺、みょうじのことばっか考えてたわ」
「えと…」
「引いた?俺、めっちゃ、」
「やだ!待ってください!あの、」
「なになに、待って、そんな泣くほど嫌だった?ごめん、」

スガさんのちょっと切なそうな声とか、自分の気持ちを諦めるみたいに無理やり浮かべた笑顔とか、私のことを見つめる瞳がゆらゆら揺れてたりとか。そんなのやっぱりどうしても期待しちゃって、でもなんかすれ違っている気がして、それってつまり、そう言うことで。

「私、私も、スガさんと同じこと、考えてて」
「え?」
「私はクラス会だけど、スガさんは可愛い女の子とデートしてるのかなとか、これはスガさんに似合いそうだなとか、激辛カップ焼きそばはスガさんなら喜んで食べそうだなとか、気づいたら全部スガさんのこと考えてて」
「うん……激辛?」
「好き、です」

気づいたら私はぐしゃぐしゃに泣いていて、泣き虫だなあってスガさんが笑った。優しく、すっごく優しく。この間たまたま見たイケメン俳優がキュンするとセリフを吐いて女の子を抱きしめるみたいに、ふんわり私の身体をスガさんの腕が抱き寄せた。あったかくて、優しくて、最高のクリスマスかもってつぶやいたスガさんの大好きな声が耳のすぐそばで聞こえる。

「……俺も、みょうじが好き。」

ただの休日が、最高のクリスマスに変わった瞬間だった。

(Merry X'mas!! 2022)

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