スパイスティーに撃沈

梟谷高校男子バレー部は、自分たちでいうのもアレかもしれないが有数の強豪校だ。そんな私たちにとって、今日は貴重なオフなのである。まぁ、中には部活したい!と暴れだしそうな人もいたりいなかったりするけれど…。
でも私にとっては嬉しい嬉しいオフなので、久しぶりに幼馴染(女子)とカフェデートを楽しんでいた。

「え、彼氏!?」
「うん。できたの!同じクラスの子でね」

衝撃、そのイチ。確かに私の幼馴染は可愛いしモテるのも当たり前だ。だけど今まで生きてきた中でその手の話が彼女の口から出てくるのは初めてだったので、私の顔はさぞ間抜けだったことだろう。同じクラスの男子から告白を受け付き合ったらしい。目の前の彼女はとっても幸せそうに頬を緩めているので、なんだか私まで幸せな気分になってきた。

「なまえはどうなの、彼氏とか」
「いやいや、私は部活で精一杯だしいいかな。」
「えぇ、いいじゃん。赤葦くんとかイケメンだし」
「へっ!?」

思ってもいなかった名前に素っ頓狂な声が出る。赤葦といえば、我が男子バレー部の副部長であり、一つ下の後輩。

「なんで赤葦のこと知ってるの?」
「有名じゃん、あの木兎を手名付けてる後輩って。それに…」
「それに、」

あまりにも含みのある笑みを浮かべた幼馴染は、視線をカフェの入口に巡らせると驚いたように口をつぐんだ。振り返ってその視線の先を辿ると…。

「あれ、赤葦?」
「あ、なまえさん。奇遇ですね」
「(奇遇て…)」

そこに居たのは(おそらく)同級生の男子と一緒にいる赤葦で、先ほどまで話題に上がっていたからなのかなんとなく気まずさを感じた。だけど今日も飄々とした態度はいつも通りのソレで、いつの間にか彼のペースに引き込まれる。ドリンクを購入した二人は、当たり前に私たちの座る隣のテーブルを選んで腰かけた。

「予定あるって、佐々木さんとだったんですね」
「え、うん。…あれ、なんで名前、二人知り合い?」
「はい、少し前に話す機会があって」

そうなの?と目の前に座る彼女を見ると曖昧に笑みを浮かべて頷いた。そうなんだぁ、いつの間に。二人とも私が知らないだけでコミュニケーション能力高いんだな。

「赤葦はなんでここに?」
「もうすぐテストなので勉強しに」
「へぇ、やっぱ真面目だねえ」

赤葦と一緒にいる男の子はお世辞にも真面目そうには見えなかったけど、納得。どうやら彼に対して勉強を教えるための回らしい。二人が真面目に勉強しているようなので、邪魔しないようにボリュームを下げながら会話を続ける。
幼馴染の彼女の惚気話を聞いているうちに、バレーばかりに打ち込んでいる自分が惨めに感じられてしまった。

「いいなあ…彼氏かあ、」
「まぁなまえは部活一生懸命してるし、それもそれで青春じゃないの?」
「そうだけどさあ!これで恋愛経験全くなしで大学に行ったら絶対浮くよね?馬鹿にされちゃうよね?どうしよう…」

すっかり氷が溶けてしまったアイスティーをくるくるかき混ぜながら手元を見つめる。こうなると、ここまで18年生きてきて語れるほどの恋愛をしていない私はヤバイんじゃないかとすら思ってくる。完全にネガティブモード。

「このまま一生恋人できなかったらどうしよう…」
「急に深く考えすぎだって!大丈夫だから。」
「うう…彼氏作る努力とか、しようかなあ」

実際どんなことしたらよいのか見当も付かないけど、と頭を抱えそうになった時だった。

「だってよ、早く付き合えば?」
「…俺と付き合います?」

隣のテーブルに向って声を掛ける幼馴染と、冗談とも取りにくい声色で冗談を述べる後輩。ぽかんとする赤葦の友達と、その状況を全く理解せずに取り残される私。

「何を言ってんの?」
「他の人と付き合おうとするなら、俺と付き合ってください」
「おお、ちゃんと言えたじゃん赤葦くん」

何、何、何が起きてるの。
幼馴染は楽しそうに笑いながらパチパチと両手を叩く。

「なまえさんのこと本気で好きなので、考えておいてください」
「えっ、ちょっと!」

勉強道具をそそくさと片付けた赤葦は、友達の腕を掴んでカフェを飛び出していった。ちらっと見えた耳が赤く染まっていて胸がきゅーっとなる。まさか、まさか…?

「なん、で」
「赤葦くん、ずっとなまえのこと好きなんだよ〜。ね?青春じゃん」

とても嬉しそうな笑みを浮かべる幼馴染が嘘を言っているとも考えにくい。だとすれば、本当に…?
理解すると顔に熱が集中して、クーラーが効いていて涼しいはずの店内が一気に暑く感じられた。今度こそ頭を抱え込むようにして目を閉じても、先ほど見た彼の真剣な顔が浮かんでくる。

「明日からどうしたらいいの!?」
「いっぱい悩みなさい、若者よ。」

私の青春が一つ、動き出す音がした。 



(赤葦まさか、今日あそこにしたのって…)
(それ、絶対言わないでよ)

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