拝啓 真反対の君へ

『翔陽がYontubeでなまえのこと話してたよ』

ゲーム仲間の…いや、世界のKODZUKENさんからのそんなメッセージに気づいたのは目覚めてすぐだった。動画のURLと共に送られてきていたそのメッセージに首を傾ける。というか送られてきたのAM4:32って、さっきじゃん。また朝までゲーム実況でもしていたのかと友達の身体を気遣いつつ開いた動画には、確かに彼が写っていた。


日向翔陽。青春を共に過ごした排球部員の一人であり、高校三年生の時のクラスメイトであり、私の好きだった人。淡い片想いを終わらせることも、始めることもできなかった私は動揺していた。なぜ、日向が私のことを動画で話しているのか。しかも日本語が通じない地球のほぼ裏側で。

その動画はブラジルで街行く人にインタビューをしていくという、よくある動画だった。ほとんど無名のYontuberが投稿しているため字幕もない。日向のおかげでちょっとだけ勉強したほぼ役に立たないポルトガルを頭の中に浮かべて必死に意味を理解した。他の人を飛ばし見していると、突然馴染みのあるオレンジ頭が画面いっぱいに写る。

「Hi!I'm Shoyo Hinata!Um homem que se tornará famoso a partir de agora!」

高校を卒業してから一度も会っていないはずなのに、たくさん成長しているはずなのに、なぜかその姿を見ると一瞬で引き戻される。焼けた肌、流暢になったポルトガル語。見た目は変わっているのに、まるであの時のままみたいで胸が詰まった。

「ショーヨー!君がこれからやりたいことは?」
「ずっとバレーボールをする!っす」
「バレー?……あぁ!!やってるじゃないか。ニンジャショーヨー!有名だよ!」
「ビーチじゃなくて、室内の方!」

キラキラした笑顔でバレーを語る日向を見て安心した。どこにいても日向は日向だな、なんて。動画を見ているうちに勝手に口角が上がってしまった。

「OKショーヨー!そのほかはないの?たとえば、ガールフレンドとか。」
「えっ!?えぇ、うーん…そうだなぁ」


「日本に好きな人がいるんだ。いつか強くなって日本に戻ったら、その人とケッコンしたいかも。」

照れ臭そうに頭を掻いて笑った日向は、その後リポーターにいじられてさらにタジタジになっていた。好きな人、いたんだ。高校出て一年でブラジルに行った訳だし…。相手は地元の人か、高校の時に遠征に行っていた繋がりの東京の人ってことになるのかな。もし身近な人だったら、さすがに少しショックを受けるかもしれない。
そういえば、研磨はこの映像のどこを見て私のことを話しているって思ったんだろう?

『動画見たよ。どこが私のことだったの?』

AM8:30。先ほど眠ったばかりであろう研磨が、このメッセージをこの時間に見ることはなかった。


◇◇◇



「みょうじさん、ちょっと!」
「はい!」

MSBYブラックジャッカル。私は今、宮城から東京を通り越して、大阪にいた。
東京の大学でマーケティングを学び、広報の仕事に就きたいと思っていた私に声をかけてくれたのはあの時死闘を繰り広げた稲荷崎高校の宮侑だった。こんなうってつけな仕事があるだろうか。大好きなバレーと、やりたかった広報の仕事。二つ返事で答えた私は、大学卒業と同時に大阪へ拠点を移した。

「新メンバーの売り出し方に悩んでてね、君の意見も聞きたいって」
「へぇ、そんなに期待の新人なんですか?」
「それがねぇ……」


「こんちゃーっす……え!?」
「え?」

軽い挨拶もそこそこに扉を開けた先にいたのはなんと日向だった。


「まさかなまえがBJで働いてるなんてな!」
「まさか日向がBJに入ると思わなかったよ」
「だって一番強い所だから!」

理由を聞いて思わず吹き出してしまう。
一番だから。昔からずっと変わっていないその志に感心する。

私たちが知り合いだと知った上司は何を勘違いしたのか「あらぁ、久々の再会なんだからゆっくりご飯でも食べてきたら!?」と私に早すぎるお昼休憩を与えた。そうなれば流れでご飯を食べに行くことになるわけで、二人で向かい合っているのは日本食が美味しい定食屋。

「米!うま!」
「ゆっくり食べなって」

ずっと日本の裏側にいた日向は、泣いてしまうんじゃないの?ってくらい感動しながら白米を頬張っていた。そりゃそうだよな…。ブラジルに行く!なんて言い出した時には本当かよって信じられなかったくらいなのに、ちゃんと実績を残して帰ってきたんだから。

全部の経験を無駄にせずに、【ここ】で挑戦しようとしているんだもんなぁ…。

「そういえば、Yontube出てたよね!」
「ゲホッ、ゲホッ、んぇ!?」

がばっと勢いよく頭を上げた日向は、真っ赤な顔をして途端にむせ込む。焦って水で流し込んだのか今度はそれが器官に入ってさらに咽せ返っていた。

「だ、大丈夫…?」
「見たの?」
「うん、研磨からなまえの事言ってるよーって言われて、見た。けど…あれ、」

どこが私のことだった?と続けて尋ねようとした時、目の前にいた日向の喉がゴクリ、と鳴る。数回胸を叩いた日向は真っ直ぐに私を見据えた。

あれ、なんか空気が……。

「なまえのことがずっと好きです。高校の時から。…あー、でも!俺、まだ強くなってないし、だから……もっと強くなるから!見てて!」
「え、ちょ、まって」
「え?…あれ?」

頭が追いつかない。日向が、私のことを好き?ということは、動画で言っていた好きな人ってまさか、私のこと?
欠けていたピースが集まっていくとどんどん顔に熱が集中する。

「も、もしかして、自分のことだって気付いてなかった!?」
「うん、まっっったく。」
「うおー!超恥ずかしいじゃん、俺…」

咀嚼できないままの会話を何度か頭の中で繰り返しているうちに、目の前の日向がぐしゃぐしゃと自分の髪を乱したので思わず笑ってしまう。バクバクとうるさかった心臓は、やっと平常運転を取り戻し始めた。

「強くなったら、もう一回言うから。」

真っ直ぐな視線が私をもう一度射抜く。待ってるよ、信じてるよ、これからもよろしくね。そんな意味を込めて大きく頷くと、太陽のような彼の笑顔が目の前で輝いて見えた。

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