めんどうな子

「今度は何が原因ですか?」
「…国見か」

中庭でぼーっとしていると、頭上から声が降ってきた。そのまま喉を反らすように見上げると、いつものように面倒くさいが全面に押し出された表情をした後輩の姿が。
はぁ、と溜息を零した彼は自然な流れで私の隣に並んで腰を下ろした。

「部活、始まっちゃいますけど」
「そうだね」
「及川サンに怒られますよ」
「そうかもね」
「花巻さんも心配してるかも」
「んー、そうかも」

私のこと置いて部活行けばいいのにと放った言葉は、思ったよりもぶっきらぼうになってしまった。でも仕方がない、私は先ほど失恋したばかりだ。しかもこの可愛いけど憎たらしい後輩は、なぜか私が振られるタイミングでいつも隣に居る。
平然とした態度で、同じ調子でまた振られたんですかと言う彼に、もう何度傷を抉られたかわからない。

「で、なんでフラれたんですか」
「……バレー部だから」
「は?」

まぁ、フラれる理由は大体いつも同じだった。
なんで俺のこと頼ってくれないの?…もっと気軽に話せる相手がいるから。
またデートできないの?…だって部活だもん。
部活と俺どっちが大事なの?…そんなの比べる対象にならないでしょ。

そうやって別れを選択せざるを得ない状況に追い詰められていくのが、いつものことだった。でも今回は、いつもよりちょっと酷かったと思う。

「"本当はバレー部に好きな奴がいて、どうせ俺はそいつの代わりなんでしょ"」

確かに告白してくれたのは彼からだったけど、私も私で惹かれていったのは事実だった。ちゃんと好きで、それを伝えて、誠実さがわかるように行動をしているつもりだった。私だって馬鹿じゃないから、過去の失敗は繰り返さないように努力しているつもり。
だからこそ言葉と行動で示すように心がけていたし、相手の表情だって常に伺うようにしていた。変化を、見逃さないように。…その結果がこれだ。

「流石に堪えたよね。もしかしたらこの先も、誰からも信じて貰えないのかもって」

私はそういう人間なのかもしれない。伝えているつもりでも伝わらない、それが急にとても恐ろしいことに感じられた。このまま心が交わる相手に出会うことができずに死んでいくことになったらどうしよう。途方もない空想だけが脳を占めて、マイナスに引き摺り込まれていく。

「俺は、信じますけどね」
「え?」
「先輩がちゃんと好きって気持ちを持ってるってことも、バレーも部員も大切にしていることも、同じくらい好きな人も大事にしていることも知ってます。」
「国見?」

いつもの飄々としたものとは違う空気を感じ取って横を見る。彼は前を見つめたまま、視線が交わることはなかった。
あれ、横顔綺麗だな。

「いい加減、俺にしたらどうですか」

その瞳がきらりと光って、私を捉えた。その視線から目を逸らすことができずに、続きの言葉を待つ。

「先輩が気づくまで待とうって思ってたけど、待つの飽きました。だから俺にしてください。俺なら全部知ってるから。」
「それ、弱みにつけ込む、ってやつ?」
「はい。でも、今まで我慢したんだからただつけ込んでる奴と違います」

確かに、と納得してしまう。私が失恋したどの場面にも国見がいた。不思議なほど、自然に。
冗談でもなんでもないその表情にどきりと胸が鳴ったのは紛れもない事実だ。私は、この後輩にドキドキさせられてしまっている。今まで一ミリも意識していなかった、目の前の彼に。

「本当に信じて、くれるの?」
「信じるも何も、知ってますから。」

そっか、と小さく漏れた声を、国見が聞き逃すはずがなかった。再び、じっと丸い眼に見つめられる。
もう、この人から逃げられないのかもしれないとすら思った。

国見と付き合ったら、今までと違う恋愛ができるのかもしれない。それは好奇心なのか、未来への期待なのかわからなかった。それでも確かに胸の高鳴りを感じる。

「タイプじゃないけど」
「そのうちタイプだって言わせて見せます」
「私、すっごく面倒だけど」
「知ってます」
「私、」

「好きです。俺のこと好きじゃなくても、面倒でも、口下手でも、バレーばっかしてても、俺は先輩のことが好きです。」

これはもう、降参だ。今までだって嫌なくらい煩かった心臓が、外に聞こえてしまいそうなくらいどくどく音を立てる。顔に熱が集中しているのだって感じる。嬉しい、恥ずかしい、嬉しい。
もうだめだ、助けてよと顔を上げた視線の先にいた彼は、とても満足気に笑っていた。

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