赤い舌でさぐりあう

何か忘れている気はしていた。それでも隣にある温もりが心地よくて、カーテンの隙間から差し込む麗かな日差しが心地よくて、何度も襲ってくる睡魔の波に素直に飲み込まれた。

次に意識が浮上した頃には部屋のカーテンは半分空いていて、その眩しさに目を細める。隣にあったはずのぬくもりが見当たらなくて首を回すと、リビングへ続く扉が少しだけ空いていたから、温もりの主は既に行動を開始しているのだろう。

そこで気付いたのは、私が寝過ぎてしまったということ。

「ん、おはよ。起きた?」
「ごめんっ、私寝過ぎた…」

キッチンから顔を覗かせた孝支くんは、私を見るとふわりと表情を緩ませて言う。本当ならば、今日は朝から少し遠くの神社に初詣に行く予定だった。私が飲みたいと言ったから、お参りついでに甘酒も飲みに行こうかと言ってくれていたのに。
そもそも同棲はしているもののお互いに社会に出ている以上、一緒にいられる年末年始という時間は貴重なものなのに。デートなんていつぶりだろう、なんてワクワクしていた昨日の自分に土下座で謝りたいくらいだ。

「ごめん、約束してたのに…。もしかして、起こしてくれたのに起きなかった?」
「んや、気持ちよさそうに寝てるなまえのこと起こせなかった」
「……起こしてくれればよかったのに。あー、本当ごめん」
「甘酒は無いけど、これならあるよ」

孝支くんがキッチンから私を手招くので、それにつられるように近寄る。孝支くんの視線の先にある小鍋にはぐつぐつと音を立てて小豆が煮込まれていて、心がホッとするような甘い香りが漂っていた。

「お汁粉!」
「そ、初めて作ったから旨いかわかんないけど」
「いい香りする!絶対美味しい!」

早く食べたいという気持ちが明らかに表情に出てしまった私の頬をゆるりと撫でると、孝支くんはクスクスと笑みを零す。そんな柔らかい表情を、変わらず私だけに向けてくれることが嬉しくて堪らなくて。しかも甘いものよりも辛いものが好きなくせに、私のためにレシピを検索してお汁粉を作ってくれたという事実が堪らなく心を擽った。
なんて最高なんだ、私の彼氏。

「何ニヤニヤしてんのさ」
「いやー?なんでも、」
「ウッソだぁ。なんか企んでんだべ」

彼が着ているグレーのスウェットの袖を捲ってやると、その手は再びぐるりと鍋の中をかき混ぜた。まるで私が起きてくることが分かっていたかのように、オーブントースターには既にお餅がセットされていて、ピィと音を立てている。

片手で私の頬を撫でながら、孝支くんは悪戯っぽく笑った。その笑顔は高校の時からあまり変わっていなくて、当時からそのまま可愛くて堪らない。愛しさは、当時よりももっと増えたけど。


「幸せだなあって、思っただけだよ。」
「うお、なんだそれ、不意打ち」
「不意打ちって何よ。幸せだなって思っただけ。新しい年になっても、孝支くんが傍にいて。」

「……俺も幸せ」

ひとつ、優しい口付けが降ってきた。
これこそ本当の不意打ちだ。

驚いているうちに、ちゅ、ちゅ、と2個3個、おかわりをくれる。


「ん、…」

ぬるりと舌が滑り込んできて、私の口内をなぞった。そのまま味わうかのように絡ませ、私の背筋がぞくりと震えたところで唇を離した孝支くんは、満足気な顔をしていた。火を消し忘れた鍋は、ぐつぐつ音を立て始めた。

「ねぇ、お汁粉後でいい?」
「……えぇ、」
「だめ?」
「食べようよ、せっかく作ってくれたんだから」

宥めるように指を絡ませながら、孝支くんが放置した鍋をぐるぐる混ぜる。いつの間にかオーブントースターからは熱が失われていて、こんがり焼けすぎたお餅は準備されていたお椀に入れた。

「なまえ、」
「なぁ、に…」

耳元でそんなに甘い声で囁かないで。思わず振り返ると、そのまま耳を舐められる。孝支くんはいつでも私を優先してくれて、優しすぎるくらいに優しくて。それでもたまに、極々たまに、こうやって我儘になる。
そんな極たまにの出来事が私にとっては新鮮で、私にだけ見せてくれるその姿が、ちょっとだけ嬉しいのだ。

「……食べようか」
「うん」

「その顔ずるいんだけど」
「え」
「足りない、みたいな顔すんな」


嘘だ、そんな顔してないよ
言おうとした言葉は発されることなく、孝支くんの唇によって塞がれてしまった。

コンロの火は、今度はしっかり止めました。

Happy New Year!2022

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