ねぇ、先輩。


「天喰先輩、こんにちは!」
「あぁ…こんにちは。」
「今日は親子丼ですか!私もお揃いにしちゃってもいいですか!?」
「別に、構わないけど……」

このどこからどう見てもカッコ良い方は、私の未来の旦那様(仮)の天喰環先輩だ。名前までかっこいいなんてどうかしてる!
今もそそくさと去っていってしまったけど、1日1回は顔を合わせて会話ができるように頑張っている。前までは会話どころか目を合わせることすら叶わなかったので、数ヶ月を掛けてだいぶ進歩した方だと思う。


「また玉砕やねぇ。」
「いやいやお茶子!?だいぶ親睦深めてるでしょ!」
「鋼メンタルやぁ…なまえちゃん…」

なんと今日は一日に二回も天喰先輩に会うことが出来た!なんて素敵な日。とるんるんで教室に戻った私に、更なる幸せが訪れた。


「今日のヒーロー基礎学はビッグ3の皆にも手伝ってもらう!」

なにそれ!大歓喜!我得!?ぱっと目を輝かやかせると、私を見つけて気まずそうに目を逸らす天喰先輩が居た。目、逸らされた…。
だけどわたしは、それだけでめげる様なヤワな性格はしていない。


内容は、3:21での対戦。21人で先輩3人を拘束出来れば私たちの勝ちだ。本当は天喰先輩のところに行きたいけれど、先輩に攻撃するというのは今のところ無理そうだ。

「ぼーっとしてちゃダメなんだよ!」
「うわわ、ねじれ先輩!」
「なまえちゃん、何考えてるの?あ、まさか天喰くっ「ダメダメダメ!」

この超絶に可愛い方は波動ねじれ先輩。ぽわぽわしてそうで意外と敏感なねじれ先輩に、私の恋心はダダ漏れ状態だ。

「とりゃ!」
「うわっ…波動さん…!?あぶな…い!」


私が放った攻撃を避け、バランスを崩してしまったねじれ先輩の先にいたのは…天喰先輩だ。

そして華奢に見えて逞しいその腕にしっかりと抱き止められているねじれ先輩。美男と美女、なんて絵になるんだろう。ちょっとだけ恥ずかしそうな2人は、まるで恋人同士のように笑いあって離れていった。


ズキリ、と心臓が軋む。

「…ちょ、みょうじ!?あぶねぇって、避けろ!」

すっかり乱戦化してしまったその中心で、轟くんの氷漬けになりそうなところを、切島くんに助けられた。

「あは、余所見してた。ごめんっ…」


乱戦の真ん中で涙を堪えるのは、私だけ。


◇◇◇



「今日は食堂じゃないん?」
「うん、今日はコンビニにした。」

暫く食堂には行かない。天喰先輩には会わない。そう決意した私の手にはフライドチキンが握られている。こんな時でも先輩がいつも食べてるものを手に取っていると気付いて溜息が出た。

それにしても天喰先輩のあんな顔、初めて見たな…。ねじれ先輩の身を案じている焦った表情、受け止めた時の安心した表情、距離に気付いたたきの照れた表情。


あんなの……、あんなの…。

「無理だよ……あんな美男美女。」


◇◇◇



そんな日も長くは続かなかった。何よりコンビニは高い、コスパが悪い。ランチラッシュのご飯が食べたい。

「うわーい!ヤケだ!ヤケ酒だぁ!」
「酒は呑めんのよ、なまえちゃん。」


「あ、天喰先輩だ!」

前方に天喰先輩と…ねじれ先輩。ミリオ先輩もいるけれど、2人は仲睦まじそうにおしゃべりをしている。

「天喰先輩!今日はなんですか、真似っ子したいです!」
「……天丼。」
「あー!なまえちゃん、元気になったね、良かったねぇ。天喰くん心配してたもんね?ノミの心臓してたもんねー?」

「は、波動さん………」


これはまさか、意図せずとも押して引く作戦が成功してるやつ?

「…あげる、天丼。」
「えっ、ちょ…えぇ!?」

買ったばかりの天丼を渡しに押し付け、天喰先輩は去っていってしまう。ねじれ先輩は私に柔らかい笑みを向けて、ミリオ先輩を連れて去っていってしまった。…これは一体何事?


◇◇◇



それから暫く、天喰先輩に会えない日々が続いた。授業も被らない、食堂に行って姿を探しても見当たらない。これってもしかして、もしかしなくても…。


「避けられてる?」
「……そうやなぁ。」

「うわあぁ…無理!どうしよう、何で?神様仏様お茶子様ぁー!」
「ちょ、鼻水付けんといて?」
「っう…ぐす、…」

昼休み。皆が食堂に向かう中、限界を超えた私はお茶子にお願いして相談に乗って貰っている。話していたら本気で苦しくなってきて、柄にもなく涙が止まらなくなってしまった。

「苦しい、もう…先輩なんか好きにならなきゃ良かった……っ!」


「好きなの…辞めちゃう?」

とうとう都合の良い幻聴まで聞こえるようになってしまった。お茶子の声が天喰先輩の声に聞こえる…。

「辞めないで、欲しいな。」

やばい、可笑しい。どんどん都合の良い言葉ばかり。
私病気なのかもしれない…。助けてお茶子……


お茶、子?


「せん、ぱい…?」
「好きでいて欲しい、な。」
「何言って……」

先輩が、薄いガラスに触れるように優しく、私に触れて涙を救った。
そんな触られ方したら私…

「……ねぇ、先輩」

さすがに期待しちゃいますよ?


「もしかして、私のこと好きですか?」

目の前の先輩は、照れながらこくりと頷いた。




「なまえちゃん!おめでとう!」
「やっと告白したねぇ、天喰くん。…って告白してない!?」
「お茶子が急に居なくなって幻聴聞こえるから私、頭おかしくなったのかと思って…」
「ウチはねじれ先輩から聞いてたんよ」
「天喰くんノミの心臓だからねぇ」

「…波動さん、みょうじさんのこと離して。もう僕のだから。」

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