国見の友達

新体制が身体に馴染んだ頃。俺は及川さんという偉大なセッターが抜けた後、北一の正セッターになった。そして春が来て3年生は卒業し、俺たちはあっという間に2年生になった。

「金田一、打ってくんないか」
「おう、いいよ」

練習だけでは足りなくて、先輩に許可をとって金田一と自主練をすることが日常になっていた。まだ、まだだ。まだ足りない。まだあの人に追い付けない。

「金田一、帰んないの?」
「ちょっとだけやってくわ」
「そっか」

国見は自主練はしない。もっとやりたくなんねぇのかなとは思うけど、別にそこまで興味もなかった。試合や練習中は上げたトスは正確に打てるやつだし。

「お前、サーブ練習したほうがいいんじゃないのか」
「は?」
「だってサーブへt、」
「ほ、ほら!国見もちょっとだけやろうぜ、な?」
「……ちょっとだけね」

影山の気を使えないところは2年になっても変わっていなかった。少々ストレートに言いすぎる節があるため、それに気づいた金田一は慌てて話を遮る。多分国見には伝わってしまっているが、最後まで言い切るよりはマシだろう。ムキになった国見も加わり、今日は3人で自主練をすることになった。

もうちょっと上、もうちょっと左。ちょっとしたズレが気になってなかなか満足いくトスが上げられない。もっとやりたい。

「私、ボール出ししようか?」

ガラガラと体育館の扉が開き、3人で振り返る。声を掛けてきたのは、扉からひょっこり顔を覗かせるみょうじだった。
確かに今は打つ側がボールを出し、俺がトスをあげ、そのまま打つから効率が悪い。ボール出してもらえる方がありがたい。

「たの、」
「お願いしてい?なまえ」
「うんっ」

影山が“頼む”とお願いするのに被るように答えたのは国見だった。国見に向き合って答えながらみょうじはシューズを履いてこちらに駆け寄ってくる。その表情は嬉しそうで、久々に見るその表情にむず痒くなった。そういえば、及川さんに頼まれてボールを上げているみょうじはイキイキしていて楽しそうだったと思い出す。

「英から?」
「うん」
「てか自主練してんの珍しいね」
「だって……」

国見がジト、とした目で影山を見ると、みょうじは納得したように笑った。

「……なんか、2人、仲良くなってね?」
「? わたしたち?」
「同じクラスだから」

その後しばらくみょうじにボールを上げてもらい、自主練は続いた。結局見回りの先生が体育館に来るまで続けてしまい、呆れ半分で帰されたのだ。
4人で連れ立って歩きながら、言いにくそうに声を発したのは金田一だった。影山にとっては気にならなかったが、彼としては2人が名前で呼び合っているのが気になったらしい。呼び方なんてどうでもいいだろ、と思いながら、影山は会話に耳を傾ける。

「友達、だよ」

国見とみょうじが同じクラスなことすら認識していなかった。2人は友達、なのか。だとしたら俺とみょうじはなんなんだろう。

「そういえば借りてたCD取り込んだ」
「よかったでしょ」
「うん!すごいよかった」

2人は、2人にしかわからないであろう内容の会話で盛り上がる。みょうじはアイポッドを取り出しながら国見に見せていた。あまり見たことのない楽しそうな表情に釘付けになり、金田一に見過ぎだと小声で突っ込まれた。

今まで意識していなかった“友達”という響きが、なぜか無性に羨ましくなる。

「何影山、羨ましいの?」
「…いや」
「俺がみょうじと友達で、羨ましいんでしょ」

くるりと後ろを振り返った国見は、ニヒルに笑いながら影山を見る。完全にしてやったりという顔をしている。
確かに名前で呼び合うのも、みょうじの楽しそうな表情を隣で見れているのも羨ましいに当てはまるのかもしれない。

「なまえ、影山がお前と友達になりたいって」
「え?」
「羨ましいんだって、俺たちのこと」
「私は影山くんとも既に友達だと思ってたんだけど、違った?」

きょと、と丸い目が俺を見上げる。その表情は先ほどまでと違って少し寂しそうに見えて、なんだか後ろめたい気持ちになる。なんて答えればいいんだ、これは。

「…友達、だろ」
「うんっ。私たちも友達だよ」

数秒の間を開けて、影山なりに考えて出した答えはそれだった。
不安だと思っていたその回答は、どうやら当たりだったらしい。ぱあっと表情を明るくさせたみょうじは満足そうに頷いて、再び国見との会話に戻っていく。

こうしてみょうじと影山は、改めて友達になることができたのだ。
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