及川さんと岩泉さんの幼馴染

俺はバレーボールが大好きだ。その大好きなバレーボールを全力でやるために、中学は強豪の北川第一に入学した。当たり前にバレーボール部に入部したら、そこには尊敬すべき先輩と自分と同じようにバレーボールに全力な仲間がいた。
俺たちの同期として、部に唯一の女子マネージャーが入部した。そいつは尊敬する先輩の内二人、及川さんと岩泉さんの幼馴染らしかった。待ちに待った部活初日、自己紹介の時に横に並んだみょうじは、丸い目で俺を見上げてよろしくね、と言った。

「じゃあなまえ、早速洗濯よろしく。」
「これも頼む。…って案外量多いな、手伝うか?」
「岩泉先輩、ありがとうございます。でも大丈夫です」
「……まーだ慣れねえな、その呼ばれ方」

ちょろちょろ動くやつだな、というのが第一印象だった。特段仕事ができるわけではないが、愛想はいい。そのおかげか、幼馴染二人だけからだけではなく先輩たちみんなから可愛がられていた。

「岩ちゃんがなまえに先輩って呼べって言ったんじゃん」
「周りから変な目で見られたら嫌だろーが」
「俺だってほんとは敬語使われんの嫌なんだけど!岩ちゃんに合わせて!」
「別に自分はそのまま呼んで貰えばいいだろ」
「ふ、二人とも落ち着いて…」

他の部員を気にしてか小声で会話をしていた及川さんと岩泉さんは、いつの間にか周りに聞こえるほどの大声を上げている。その様子を見たみょうじは口では困ったように宥めているが、その表情は楽しそうに見えた。側から見たら中の良い幼馴染のじゃれ合いだ。

「私ね、徹くんと一くんのプレーを間近で見れるのが楽しみ」
「「(可愛い、)」」

最終的に3人で楽しそうに笑っているのを見て、漠然と何かいいなと思った。

「影山くんも、ビブス洗っちゃうから脱いで欲しいな」
「…おう」
「うん、貰うね」

脱いだばかりのビブスを彼女の手の上に乗せると、彼女はありがとうと影山に笑いかけた。影山は、すぐに踵を返して駆けていく小さい背中をじっと見つめた。これから洗濯をするというのは容易に理解できるが、柔らかいその笑顔がなんとなく影山の頭に残る。洗濯が楽しいから笑ったわけではないだろう。

「何飛雄ちゃん、なまえのことそんなに見つめて。」
「いや、別に」
「ウッソ〜!さっそく好きになっちゃった?」
「いえ」
「なまえは飛雄ちゃんにはあげないよ」
「何言ってんだクソ川」

後ろで1つに結った髪をぴょこぴょこ揺らしながら歩くみょうじを見ていると、及川さんが背後から話しかけてきた。会話の内容がイマイチ理解できない影山は緩く首を傾ける。
可愛い幼馴染の背中をじっと見つめているのはバレーがうまい新入部員。これは脅威だと感じた及川としては牽制のつもりで声を掛けたが、お世辞にも察するということができない影山にとってそれは意味をなしていなかった。

「岩泉さんも幼馴染なんですよね」
「おう、そうだよ」
「俺もだけどね!?」
「…」
「気になるか?」
「いえ、スパイクの打ち方教えてください」
「おうよ」

自分のことをスルーされた及川はなんとかして影山の視界に入ろうとちょっかいをかけるが、見事にスルーされる。影山としては既にみょうじよりも岩泉のスパイクの方に興味が移っていた。早く彼にトスを上げてみたい、スパイクを生で見てみたい、それだけだった。


***



「とおるくん、はじめくん…」
「なまえ、泣きすぎだよ」
「徹くんだって泣いてるくせに…」
「顔拭け」
「一くん、カッコよかったあ」

次にみょうじが二人のことを名前で呼んでタメ口で話しているのを見たのは、三年生の最後の試合だった。北川第一は因縁のライバルである白鳥沢中等部に惜しくも敗れたが、及川さんはベストセッター賞を受賞した。
俺は、初めて見た時から及川さんのプレーに目を奪われた。トス回しはもちろん、サーブもレシーブもできる優秀な選手であるとすぐに理解した。それからここまでは、及川さんに追いつこうと必死だった。

「及川さん、」
「お前はいつか絶対に潰す!」
「…はぁ」
「あと、なまえは絶対にやらないから」
「?」

影山は、入部当時と同じように訳がわからず首を傾げた。及川にとってはその反応も面白くないのだけど、まあ良しとしよう。可愛い幼馴染が一人で片付けを頑張っているからとその場を離れ、なまえの手伝いを急ぐことにした。

三年生の最後のプレーを見て、みょうじは感動なのか悔しさなのか顔をぐしゃぐしゃにして泣いていた。その横で俺は、試合に出れない悔しさを噛み締めていた。及川さんは確かにすげぇセッターだ。あんな風になりたいと思う。でも俺は、それを超えて行きたい。

「…二人がいなくなるの不安だな」

撤収が終わって体育館を出る間際、みょうじは聞こえるか聞こえないか程の小さな声で呟いた。俺は、その言葉の意味が理解できなかった。何が不安なんだろうか。これからは、俺がいるのに。口を開き掛けた時にはもうみょうじは隣に立っていなくて、帰りのバスに乗り込んでいた。

こうして、及川さんたち三年生は引退し、新体制の北一バレー部が始まった。
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