小説 | ナノ
ぼくとアサガオとまほう使い

「アサガオ、育ててるの?」
「うん!学校で、ひとりひとつずつ育ててるんだよ!」


ぼくが昨日かいた絵日記を見ていると、ローゼルおねえちゃんが"かうんたー"っていうところからぼくが座っているとっても高いイスのとなりに来てぼくの絵日記を見て、「絵も文も上手ね」ってほめてくれた!えへへ、すごくうれしい。だってね、ぼくはローゼルおねえちゃんが大好きなんだ。かわいいし、すっごくやさしくって、それにローゼルおねえちゃんが作ってくれるホットケーキ、ふわふわでおいしいんだよ。


「おねえちゃん、今日はメガニウムいる?」
「ええ、裏庭にいるわ。タイくんが話してくれる学校の話、聞くのが楽しいって言ってたよ」
「ほんと!?じゃあ、今日もたっくさん話してあげよー!」


さいしょはこわくて降りられなかったイスも、今じゃぴょんっ!て飛びおりられるようになったから、ぼくは今日もぴょんっ!てしてから"かうんたー"の後ろに回って、お客さんが入ってこない方のトビラから外に出た。
ローゼルおねえちゃんは"きっさ店"っていう、飲みものとかおいしい食べものをお客さんに作るお仕事をしてるんだって。でね、ぼくのお家はとなりにあるから、おくの方にあるあの場所をぼくは知っているんだ。ぼくとローゼルおねえちゃん、それからバジルおにいちゃんと、メガニウムだけが知ってるところ。

―……外に出て、すぐにいいにおいがした。
ここが「ヒミツの花ぞの」だよ!ほら見て、色んな花がたっくさんさいているでしょう!これは全部、ローゼルおねえちゃんとバジルおにいちゃんが育てているんだよ!ぼくのアサガオもさいたら、ここでいっしょに育てたいなあ。
そう、それでね、ここにはローゼルおねえちゃんのポケモンの、メガニウムがいるんだけど……。


「おう、タイム。学校帰りか?」
「バジルおにいちゃん、メガニウム見なかった?ローゼルおねえちゃんはいるっていってたんだけど……」


きょろきょろするぼくの近くまでバジルおにいちゃんが頭をかきながらやってきた。
バジルおにいちゃんもここでお仕事してるんだって。きみどり色のかみの毛とヒマワリみたいな色の目でね、すっごくかっこいいんだよ。ぼくはバジルおにいちゃんも大好き。


「メガニウムならさっき起きて、すぐにボールに入ってたぜ。しばらく出てこねえよ。おい、それより今日の学校はどうだったんだよ。早く俺に聞かせろよ」
「いいよ!メガニウムにはあとでお話ししよう」


バジルおにいちゃんと手をつないで、テーブルとイスのあるところまで歩いていく。お花と草の間のほそい道は橋で、ここから出たら川に落ちちゃうゲームをするの。だからいっつも、バジルおにいちゃんとおしくらまんじゅうしながら歩いていくんだけど、今日はおにいちゃんに聞きたいことを聞いてみた。どうしてぼくのことを「タイム」って呼ぶのかなって。ぼくの名前と一文字も同じ字がないのに、ぼくはここにいるときだけ「タイム」って名前になっている。
お花のアーチを通って、白いテーブルが見えた。いつもならすぐにイスにすわっておにいちゃんにお話しするんだけど、今日ははじっこまで行って草の上に座った。白いイスもいいけれど、草の上もいい!
ふと、バジルおにいちゃんが花だんにさいていた花のくきをやさしくつかんで、ちょっとだけぼくの方にかたむけた。


「紫色でちっこくてカワイイ花だろ。あのな、花にもそれぞれに言葉があるんだぜ」
「あっ、この前学校で女の子がいってたよ。花言葉っていうんでしょう?」
「おう、よく知ってんじゃねーか。これがタイムっつー花でな、花言葉は"活気、活発"ってんだ。つまり、元気ってことだな!お前にぴったりだろ。だから、お前のことタイムって呼んでんだよ」
「へー!そうだったんだ!」


タイム!この花も、ここだけのぼくの名前も、さらに好きになっちゃった!それから今度はちゃんとイスにすわって、「早く聞かせろよ」って言うおにいちゃんに学校のことを話す。今日はいつもよりたくさん話せたのは、きっとうれしいことがたくさんあったからだと思う。
たっくさん話して、気づいたら空が赤くなってたから、バジルおにいちゃんとバイバイしてお店にもどって、ローゼルおねえちゃんともバイバイしてからお家に帰った。ぼくの毎日は今でもすっごく楽しいけれど、きっと明日からはアサガオのことも話せるからもっと楽しくなると思う!

ぼくはその日、しあわせいっぱいでベッドに入った。





それからしばらくして。……ぼくのしあわせは、どこか遠くに消えてしまった。かなしくて、ぼくは今日は「タイム」にはなれないって思って、お店の前を早く通りすぎようとしたんだけど。


「タイくん?」
「……ローゼルおねえちゃん、」


お店の前にあるお花に水をあげていたローゼルおねえちゃんに見つかってしまって、それにぼくのこのまっ赤な目も、後ろにかくしたアサガオも、きっとおねえちゃんに見られてしまった。男の子だからもう泣かないぞ!ってきめたのに、なんでか分からないけどおねえちゃんを見たらまた泣きたくなっちゃった。でもね、ぼくはおねえちゃんにカッコ悪いとこ見られたくなくてひざの肉をぎゅーってつねってガマンしてたんだ。


「ホットケーキ作ってあげるよ。おいで、タイくん」
「…………うん」


えがおでぼくを見ているローゼルおねえちゃんの手をにぎり、もうかたっぽの手でアサガオをだきしめながらお店の中にゆっくり入ると、バジルおにいちゃんが高いイスにすわりながらケーキを食べていた。おにいちゃんがお店の中にいるの、はじめて見た。それにもぼくはびっくりしたけど、それよりももっとびっくりすることがおこった。ぼくの顔を見るなり、持っていたフォークをなげてぼくのすぐ目の前まで飛んできたんだ。おにいちゃんがものすごく早くて、ぼくは両方のかたをつかまれたり、ほっぺを手でぐりぐりされてもまだびっくりしたままだった。


「どっどどどうしたタイムっ!?だれかにいじめられたか!?おうおら言ってみろ!俺がソーラービームでふっ飛ばしてやる!ああそれかあれかっ!?転んだか!?痛いのか!?見せてみろ!俺の花びらの香りで痛みを和らげ……」
「バジル」
「……あ」


とつぜん石みたいになったバジルおにいちゃんを、ローゼルおねえちゃんが手でどかすとぼくを高いイスに乗せて、れいぞうこからジュースを出してコップにそそいでぼくにくれた。正直、おにいちゃんが何を言っていたのか分からなかったけど、ぼくをしんぱいしてくれているのは分かった。…だからぼくは、おねえちゃんとおにいちゃんには話すことにしたんだ。ぼくがすごくかなしい理由。ぼくが「タイム」になれない理由。


「あのね、……ぼくのアサガオだけ、さいてくれないんだ。みんなよりも早く学校に行って毎日お水もあげてたのに」


足の横に置いてある、学校から持ち帰ってきたアサガオを見てぼくはまたかなしくなった。みんなのアサガオは、もうキレイにさいている。でも、ぼくのは花もさかないし葉っぱが茶色くなっちゃっているんだ。先生がぼくのアサガオの葉っぱは虫に食べられちゃって、だから弱ってるっていってた。だからぼくは、それから毎日虫を見つけたら遠くににがしていたんだ。でもそれでもダメでね、先生はほかの子のアサガオをくれるって言ってたけど、ぼくはそれじゃイヤで「そんなのいらないです!」って言っちゃったんだ。それで今日、みんなに「お前のアサガオだけしんでるー!」「えーまださかないの?」って笑われて……。


「おねえちゃん、おにいちゃん。ぼくのアサガオ、なんでさかないんだと思う?……ぼくがいけないのかなあ。……もう、元気にならないのかなあ……っ?」


ただ、お話しをしていただけなのに。ぼくの目からなみだが出てきて、すっごくかなしくなって「わーん、わーん!」って家で泣くみたいに泣いたらもっと止まらなくなっちゃった。ジュースも作ってもらったほかほかのホットケーキもおいしいはずなのに、ぼくのなみだでしょっぱい。
ローゼルおねえちゃんがぼくの頭をなでてくれている。うれしいはずなのに、なんだか心がもやもやして何にも思えない。それから手で何度も目をこすっていると、とつぜん、ドンッ!ってアサガオがぼくの横にあらわれた。びっくりして顔をあげると、バジルおにいちゃんがぼくをこわい顔で見ていた。それから、ぼくの横にあるイスにすわって、アサガオの向こうがわで今度はニコニコしながらぼくを見る。


「タイム。お前に俺のヒミツを教えてやろう」
「バジルおにいちゃんの……ヒミツ……?」
「俺はな、……実は、魔法使いだったんだ」
「……ええ?」
「見てろよ、今、魔法でお前のアサガオを咲かせてやっから」


そういうと、アサガオの横に手を広げると「アサガオよ〜タイムのために世界一綺麗に咲きたまえ〜」なんて、低い声のヘンな歌が聞こえてきた。まほう使いなんて、このぼくでも信じられない。……でも、それでも、バジルおにいちゃんはぼくがテストをうけているときのような顔をしていたから、ぼくもアサガオを見ながら思いっきりこうさけんだんだ。


「―……っおねがい、ぼくのアサガオ!!きれいに、きれいにさいてください……っ!」


―……そしたら。
ポン、ポン、ポン!……ぼくの目の前で、今、アサガオが一気にみっつ、さいたんだ。それに、茶色だった葉っぱがまたみどり色にもどっていて、前よりも元気そうに見える。なみだが止まって、目を大きく開きながらからだを横に動かして、アサガオにかくれていたバジルおにいちゃんを見た。


「おにいちゃん、ぼくのアサガオ……!おにいちゃんのまほうでさいた!」
「いーや、俺が魔法を使う前に咲いたぞ!きっとタイムがいままで毎日水やって、枯れそうになっても諦めないで大切に育てていたから、やっと今、声がアサガオに届いたんだ!だからこれはお前が咲かせたんだ!すごいぞタイムー!」
「―……っやったー!」


高いイスから飛びおりて、またはねて、バジルおにいちゃんをぎゅーってすると「良かったなタイム〜!」ってぎゅーってしながらたくさん頭をなでてくれた。ローゼルおねえちゃんも「きれいねえ」って笑ってくれてて、今度はぼくのかなしみがどこか遠くへ消えたんだ!
タイムになったぼくは、おにいちゃんといっしょにお店の中をおどってから、アサガオを持ってお母さんに見せたあとにお母さんと学校までいっしょに行ってアサガオを元のところにもどしてきた。お母さんもぼくのアサガオを見て「夕方なのにどうして咲いたのかしら。それにしてもきれいね」ってニコニコしてたんだよ。

それから次の日の朝、ぼくはいつもより早く学校へ行った。……そしたら、ぼくのアサガオが一番きれいにさいていて。昨日ぼくを見ながら笑っていた子たちも、学校にきてぼくのアサガオを見てびっくりしながら「すごい!」って言ってくれたんだ!なんだかぼくも、アサガオといっしょに成長したみたいで、すっごくすっごく嬉しかったんだ!



「ほらみて、メガニウム。これがそのアサガオだよ。きれいでしょう!」
「ニウ、ニウニウム〜!」


その日も学校からアサガオを持ち帰ってきて、ちょっとおそくなっちゃったけどやっと「ヒミツの花ぞの」で久しぶりに会ったメガニウムに話せた。ローゼルおねえちゃんにはまた見せられたからよかったんだけど、バジルおにいちゃんはお出かけしてていないんだって。あーあ、今日もおにいちゃんに見てほしかったなあ。


「ニウ、ニュムー!」
「うん、じゃあ今日はバジルおにいちゃんのぶんも、たっくさんメガニウムにアサガオ見てもらおーっと!」
「ニュムムー」
「え、ちがう?あっ、学校のことも話すよ!」
「ニウ!」


そうしてぼくは今日もしあわせいっぱいで、たくさんのきれいな花に囲まれているこの花ぞのでメガニウムによりかかりながら話をはじめる。
今日のタイトルはずばり。


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