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良き悪戯日和の様で

和服姿の彼は、今日も今日とて縁側でのんびりと過ごしている。
近寄って、何も言わずに彼の膝を枕にして体を小さく丸めた。
薄灰色の布地に顔を埋めて、中性的な其の顔に似合う柔らかな膝に、やっぱり此奴雌なんじゃないかなあ…と思えば、ぺしんと頭部を軽く叩かれた。
次いで髪の毛を引っ張られてプツンプツンと抜かれ始めて流石に我慢ならず声を出して講義した。

「…痛い」
「だろうね」
「泣きたい」
「汚い」
「酷くない?」
「酷くない」

…泣きたいは誇張し過ぎたと自分でも思うけど、なんて酷い返しなんだろう。
埋めていた顔を頭上の彼の方に向けると、柔和な笑みを浮かべていた。
ヌケニンは黄土色の髪をさらりと耳にかけると「悪戯だよ」と楽しそうにそう言う。
此奴はいつもいつも、あまりに綺麗に笑うからなんだか面白くないけど、嫌いじゃ無いから怒るに怒れなかった。
痛む頭皮を押さえて、ジト目で彼を見上げる。
ああ、また笑いやがった。

「今は拗ねててもいいけど、もう少ししたら皆帰ってくるよ?」
「…なら今はまだいいだろ」
「まあそうだね。…皆には沢山お土産買うように言っておいたから、後で大量にふんだくるといいよ」

中性的で優しい面差しの彼は、悪戯好きな性を全面に押し出してそう宣う。
横暴だなと言えば、主よりは可愛らしくてマシだと思うけどね。と余計な事を言う。
本当に、見た目とのギャップが有り過ぎる。
さっきまで手持ちの皆に買い出しに行くのを置いてけぼりにされて苛々していたのに、其れを忘れてしまう位に笑った。
その時、ふっと空気が揺れた。





やっと笑ったね――。


そう言って緩く微笑む彼には、やっぱり適わないと思った。

気恥ずかしくなって一寸だけ力を込めて腹を殴ったら「主って…お馬鹿?私ゴーストタイプだから効かないよ」と笑われた。
なんだかとてもイラッとくる言い方に、べーっと舌を出して彼の膝から即座に飛び起きて逃げた。
縁側から中庭に飛び降りて走って其のまま逃げると、ぴとりと後頭部に違和感。
だけど気にする余裕が無かった。走って走って、玄関の前へと回った所で、ふぅと一息つくと丁度俺を置いてけぼりにした手持ち達が石段を上がって帰ってきた所だった。
お!

「へいっ!お土産くれ!」
「酷いなぁ、おかえり位言ってくれて…も……」
「…?」

俺を見てというより、背後を見て叫ぶ面々。
そして後に俺も絶叫した。


いきなり背後取るなよ!


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