存外、やさしい包容だった 「ストーカー…?」 「ぶん殴って欲しい?」 なんて失礼な返し方をするんだろうか。 にこりと微笑みながら、物騒な発言をしてくれた青年からサッと目をそらして、考える。 …一体いつの間に此の男は此処にいたんだろう。 図書館を出て少し歩いた先にある此処、中庭のベンチは、昼間はいい感じに日陰ができるし、人もあまり来ないから…ベストスポットだったのに、な…。 目のやり場に困って、膝の上に乗せた本に視線を逃がす。 見下ろされてるのが、気配で感じる。 彼を見ないままに、口を開いた。 「…俺、ただの大学生なんだけど」 「知ってる」 「、やっぱりス…」 「殴るよ?」 「……。…なんで君は俺がいいの」 俺はトレーナーじゃないんだよ。顔を上げて、其れを伝える。 だけどそれでも、彼はにこやかな笑みを絶やす事はしなかった。 自分の両手の指を胸の前で交差して絡めて、ふふっと柔らかく笑う彼は、絵になる位に綺麗だった。 「名前、教えたでしょ。呼んでよ。僕の名前。ねぇ、男主」 「……フレア」 「ふふ。…僕はね、君と一緒に居たいんだ。男主。トレーナー云々は僕にとってどうでもいい事なんだよ」 以前に聞いた彼の名前を口にすると、彼――フレアは、本当に嬉しそうに表情を綻ばせた。 そうして歌うように紡がれた言葉に、…どうしたものか、と考えてしまう。 「いつも会いに来てくれてる君には悪いけど、俺、ポケモンを持つ気は無いんだ。本当に」 だから、諦めて。 いつもの台詞を、いつものにこやかな彼に放つ。 だけど其れは、いつもと同じ様に、くすっと照れたように笑われた。 「強情だなあ…。僕ラフレシアだよ?自分で言うのもなんだけど、レベルだって高い方だし、其れに本読むのも好きだし。ミステリー系ね。君とは相性いいと思うんだけどなあ…」 ダメ?と首を傾げられても困る。 やっぱりフレアは、なかなか折れてくれない。 是も、いつもの事。 だけど。 「…友だちなら、いいよ」 「……え?」 同じ読書家で、同じ趣味を持つ『友だち』に憧れていたから、色々と妥協して出た言葉だった。 こんな歳で嘘だろ…おい。と言われてしまうかもしれないけど、俺には友人は一人もいないから。 今度は俺が、ダメか?と首を傾げた。 返答は… とても綺麗な破顔一笑と共に、抱き付かれた。 穏やかな昼下がり、 ラフレシアの彼と友だちになった。 main |