小説 | ナノ
ゆらめき つかんだ其の手は


「、っ!」

今でも夢に見る。
幼い頃の、忘れたくない記憶。


窓側の最後尾、日当たり最高の其処が俺の席。

授業中に見るような類いの夢じゃねぇよなぁ…と頬杖をついて思いながら、先生の長い語りを聞くともなしに花壇に咲き誇る秋の花々に目をやった。
相も変わらず学校で暮らすポケモン達が楽しそうに花壇の周りで遊んでる。
…エルフーンやフラベベは兎も角、一年の奴らが其の顔面の怖さで泣くからガマゲロゲはどっか行けよ。ほんとマジで。また始まるぞ。ああ、ほら…。

こりゃもう一年の体育の授業は中止だな、といつもの光景に呆れて落書きの作業に戻る事にした。
ノートの余白に描いたポケモン達の上から、芯を出してないシャーペンでとんとんと叩く。次、何描こう。
黒板の上にある丸時計は、まだまだ授業が終わらない事を教えてくれている。ほんと此の時間退屈過ぎ。
もう一眠りする為にまた机に伏した俺は悪くない。
只単に、授業がつまらないからだ。決して夢の続きが見たかったとかそういう訳じゃ無い。


あれは、まだ俺が小学校に入る前の、ちびの時の事だ。
探検好きだった俺は、母さん達の目を盗んでピクニック先の裏にあった山に一人で入った。
そしたら、其処で彼奴と仲良くなったんだ。
名前は知らない。お互いの名前を教え合う第一コミュニケーションすら、俺も其奴もしてなかったんだから、多分俺と同い年だったんだろうと思う。
楽しかった。ゲームやテレビも無い山の中だったけど、木登りも散策も川遊びも、彼奴とした何もかもが。
なのに。
君は、もう帰らなきゃ。戻れなくなっちゃう。と泣きそうな顔で、彼奴は言った。
正直よく分からなかった。
だけど、無我夢中で伸ばした手で俺と同じ位にちっせー彼奴の手を掴んだんだ。
泣くなって、言いたかったから。

でも。
オレンジ色の空と、鮮やかな青色の髪。零れた涙。
其れが、俺が見た最後だった。
だって、どうしてか其の時、どうしようもなく眠たくなってしまったから。


***


ねぇねぇ。

なに?

としょしつにね、ポケモンがヒトのすがたをしてせいかつをするせかいがあるっておはなしがかかれた本があったの。

なにそれー。

それうそだよー。

だって、みたことないもん。


***





「今度は、僕が彼に会いに行くんだ」

静かな川の畔、そう一人呟く青い少年がいた。
ポケモンの姿へと戻った少年は、そうして川の中へと消えていった。


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