生まれ変わったらうちはの子供になってました。
ハイ詰んだ いつかイタチに皆殺しされる一族なんて希望もクソもないとやさぐれた幼少期、それも弟が生まれるまでだった
「あなたの弟よ」
ふくふくのほっぺた。ちいちゃい貝殻みたいな爪。黒真珠みたいな瞳はほんの少し力を込めたら壊れてしまいそうな儚さと、初夏の青葉を彷彿させる生命力に満ち満ちていた。
まん丸な瞳をきょろりと此方に向け、にまりと口角を上げる。笑ったのだ。
赤子の笑みは単なる頬の筋肉の収縮に過ぎない。そうとは知っていても、
「きみは、わたしがまもってあげる」
優しく抱きしめたらうとうとし始めた君が酷く愛しかったのを一緒忘れないだろう。
「マダラ、なにしてる?」
弟の名がマダラだと聞き赤子を落としそうになったのは記憶に新しい。確かうちはの創始者であり裏切り者と忌まれた名を付けるとは何事かと思えばその本人だったらしい。なんてこった!
「何してたって姉貴には関係ねぇだろ」
「弟の癖に生意気だ」
「いてぇ!やめろよ!」
反抗期に突入したらしい弟の頭を鷲掴めば涙目で睨み返される。その目が既に写輪眼なのが悲しい。まだ10歳過ぎたばっかりなのに。平和な世界から来た私にとってこの世界は異常だ。玩具を持つ手に苦無を握らせ命がけの鬼事をさせるのだ。親が、一族の誇りのためだと戦場へと背中を押す。狂ってるとしか思えない。
「雫、こっちに来なさい」
父親が此方を見据え部屋に入って行った。また訓練か、嫌な物だ。前世の記憶があった私は当然ながら周りの子よりは精神的に熟していたためか、チャクラコントロールが上手かった。だから期待されているらしい。
敵を殺すことを。
13歳の頃は何をしていただろう。自転車でお喋りしながら通学して、テストで悩んで、憧れの先輩に胸を高鳴らせ、部活に打ち込んだり、色んな事をした筈だ。
今はただ殺すために生きてる。初めて人を殺したのはいつだったか。覚えていたくなかったから忘れてしまった。
「…姉さん、」
「マダラはイズナと遊んでなさい」
ぐしゃりと頭を撫でて弟に背を向ける。 今日は何をしろと言われるだろうか、幻術で敵自らの首を掻き切らせる?火遁で骨まで焼き尽くす?それとも新しい殺し方を教えられるだろうか。
私が頑張ることでマダラやイズナが苦無を握らされるのが遅くなれば良いのに。きっと幼少期から優秀だろうからそうはいかないだろう。
「戦争なんて糞食らえ」
唯一の親友はこないだ肺を貫かれて血反吐を吐いて死んだ。その時に万華鏡写輪眼を開眼した事を父親は、一族は喜び褒め称えた。全く、どいつもこいつもクソ野郎ばっかりだ。
3つ上の姉は全く出鱈目な女だった。下らない悪戯を仕掛けてくるのを怒れば頭をぐしゃりと撫でて笑う。巫山戯た事ばかりしてるくせに忍術は格段に秀でている。父親が、一族が期待しているのを俺も何よりも本人も感じているだろう。
「戦争なんて糞食らえ」
吐き捨てられた言葉には嫌悪憎悪怨恨全て含まれていて。こないだの戦の後から姉は写輪眼の文様を変えていたが理由は笑って誤魔化された。万華鏡写輪眼と言うのだと名は父親が教えてくれた。
開眼したばかりの写輪眼をみせれば姉は悲しそうな顔をする。父親は、一族の皆は喜んでくれたのに。皆が褒め称える自らの万華鏡写輪眼を鏡で見れば嫌悪の眼差しを向ける。
「姉貴はうちはが嫌いなのか…?」
問えば弾かれたように目を見開いて此方を見た。瞬きを数回、そして笑顔で首を振る。
「なんでそう思う?」
「だって…」
写輪眼習得を祝ってくれなかったから、と些か子供じみた理由を口篭りながら答えればいつものように頭を撫でられる。
「よく頑張ったな」
「姉貴の万華鏡写輪眼の方がずっと強い癖に…」
「…」
姉は黒い瞳を細め、溜息を吐いた。
「お前もイズナも、いつか開眼してしまうだろう」
まるで開眼しなければ良いような口振りにむっとする。きっと、姉は自分達が強くなるのが悔しいのだと思い頭に乗った手を払いのける。
「絶対姉貴よりつよくなってやる!」
足音荒く出て行った弟の背中を見つめ、ナズナは溜息を吐いた。私は所詮ただの女に過ぎないし、いずれ容易く弟達に追い抜かれる存在なのに。側に寄ってきたイズナを抱き上げ、柔らかい黒髪に顔を埋める。
「この戦国の世で強いのは幸か不幸か」
弱ければ生き残れない、強ければ殺す側に立つしかない。くるりと幼さの残る瞳が此方射る。深淵の底知れぬ黒い瞳はこれから汚い物を嫌でも写して行くのだろう。
「死ぬなよイズナ」
「…うん」
命がどれだけ儚いか痛いほど知っていながら、願わずにはいられない。
「頭領の目は、もう…」
使えば使うほど視力を失い、最後には閉じてしまう万華鏡写輪眼。一族の長がその様だと敵に知られればひとたまりもないだろう。治療はひとつだけ、誰かの目を移植すること。
ざわめく一族を冷たく睥睨しながら、震える手を上げようとしたイズナの手を優しく握り締める。見開いた瞳に微笑みかけ、空いた手を天井に向けゆっくりと伸ばす。
「私の目を移植して下さい」
「ね、姉さん!」
「しかし…」
「血が近い方が拒絶反応も起きにくいでしょうし、私以外に適任が居るとでも?」
ざわざわと騒がしい割に自分の目を差し出そうという奴は誰も居ない。当然だろう、目を失うことは死と同義だ。誰も命は惜しいのだから。
「決定でよろしいですね」
さっさと立ち上がり集会場を後にする。善は急げ、だ。後ろから慌てて付いて来たイズナの顔が霞んでよく見えないが、微笑みかけて誤魔化しておく。
「姉さん!」
「なんだ騒がしいなイズナ、どうした」
私の目も閉じて来てしまっているのだ。ほとんど視力はないに等しい。移植すれば永遠の万華鏡写輪眼がマダラの物となるのだ。いつしか失われる物ならば与えてしまった方が良いだろう。
「俺がっ…」
「阿呆、私の視力がほとんど失われてるの知ってるだろう」
「姉さんにそんな事させられっ…!」
「私が弟にそんな事させると思うのか?」
腹に拳を一発、グッタリとした下の弟の額に口付けをひとつ。物言いたげな仲間にその体を押し付けてマダラの部屋に向かう。これでマダラは永遠の万華鏡写輪眼を手に入れるしイズナが死ぬことはないだろう。
「よろしいのですね?」
「これで良いんだよ」
眠ったマダラの瞼にも口付けをひとつ。チャクラを纏った指先が瞼を押し退け眼球を柔らかく撫でた。不思議と、痛くはなかった。眼窩に氷を突っ込まれたような感触と共にくり抜かれた自らの眼球を眺める。もう一人の術者がマダラの眼球を抜いていた。
「…反対も取りますよ」
「なんで私よりお前が未練がましいんだ」
「貴女の目は綺麗でしたので」
「今度はマダラの目を愛でれば良いだろう」
呆れたように溜息を吐けばそうではないと首を振られた。
「いきますよ」
「ああ、」
反対の眼窩を指先がなぞる。この指を抜いた後、私に残るのは暗闇だけである。最後に可愛い弟達の顔を見れて良かった。それだけだ。
「目の移植、終わりました」
手探りでマダラの顔に指を伸ばせば乾いた包帯に触れる。閉じられた瞼の下には私の目が息付いているのか。
「さて、行くか」
「どちらに?」
もちろん、
「戦にだよ」
「久しいなマダラ!」
「柱間…」
あの強大なチャクラの塊は間違いなく千手柱間だろう。ラスボスかお前は。火遁で敵をぶち抜いて先陣を吹っ飛ばして、本陣まで突っ込む。今はマダラに変化してるから敵の警戒感半端ない。
「目を患ったと聞いたが」
「貴様が案ずるのは自分の命だ」
うちはを振り回し大地を砕く。攻撃を喰らわせる事すら難しい。そりゃ忍の神と呼ばれる男に凡人が勝てる訳がなく。写輪眼開眼してから当然のように使いこなしてきたから目がないのは不便だ。
だが、生憎と私はマダラに目を差し出すことを決めていたのだ。
万華鏡写輪眼を使わず戦う訓練もしていた。かといって写輪眼なしに千手と戦うのは素手で戦う事と大差ない。勝機はないのは最初から分かっている。
口寄せで呼び寄せた火車と共に柱間に攻撃を仕掛けていく。攻撃の読みにくい木遁で傷を追いながらも執拗に技を仕掛けていく。
「ぐっ…」
「お主、まさか…」
腸を抉られ血反吐に噎せ返った。痛みにチャクラが乱れ変化の術が解けたのか、かさついた包帯の端が頬を撫でる。柱間が動揺してるのを感じた。そりゃそうか、眼窩が窪んでる女が居たら怖いだろ。
「目を差し出したか…悍ましい一族よ」
このチャクラは千手扉間か。たしかうちは警戒してたもんなコイツ。うちはを警備隊に任命して里の中核から遠ざけ、そして悲劇は起きた。その原因たる男だ。
「悍ましいのはお前の方だよ」
穢土転成とか、うちはの迫害とかな。腹が焼けるようだ。突き刺さっていた木の枝というより幹を引き抜き地面に無様に転がる。血液を失い過ぎて息が詰まる。死が間近に迫っていた。
「…平和な世界を作ってくれよ」
「ああ、勿論ぞ」
「子供が苦無を持たないような、」
今はお互い一族の頭領として争うお前達とて子供時代があったというのに。
「ずっと水切りさせてやりたかったんだがなぁ…」
柱間が息を飲む。一族の名を知る前はあんなに仲良く遊んでいたのに。戦わせたのは一族の名を背負わせたからだ。悪いけど、やっぱり私はうちはが嫌いだったよマダラ。誇りを理由に殺し合わせる大人達が大嫌いだ。
「姉上!!」
火遁がベールのように柱間達と隔て私を包む。震える手で抱き起こされるがもう指一本動かせそうにはない。雨が降ってるのか頬を生温く水滴が流れていく。
「恨むなよマダラ」
「何をっ…」
「お前と柱間2人で里を創るんだからな」
子供時代の夢。この世界に生まれ落ちてからはどれだけ平和が尊いか身に染みて分かっている。実際これから木ノ葉隠れの里をおこし、子供を戦地に送り込まなくて良くなるのだ。
「仲間を殺され挙句に目の前で姉の命を奪われっ!恨まずにいられるか!」
「姉の命令が聞けないか」
マダラが押さえてくれている傷から血は止まることなく流れ続けている。いい加減視界が白い。いや元から何も見えては居なかったが。
「イズナと仲良く、生きろよ」
最後まで上手く喋れただろうか?第2回目の生は自らの望み通り、イズナの代わりに目をマダラに与えて死ぬ事が出来た。これからは可愛い弟達の成長が見えないのだけが心残りだ。
近いうちに戦は終わりだろう。そして柱間とマダラが共に手を取り合って里をおこす。そのあとマダラがクーデターとか起こさないと良いんだが、まぁイズナが居るから止めてくれるだろう多分。
心臓が止まっても暫く聴覚だけは残る。だからそんなに泣かないでおくれマダラ。もう頭を撫でてやれないんだから。
そして未来、なぜか穢土転成でよみがえった雫は「姉を殺された恨み」でマダラが木ノ葉を恨んだ事を知り頭を抱え忍連合側に着き弟を矯正する事を心に誓った。
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